UXデザインの次の大きなキーワードは『プロダクトシンキング』ー人生は誰も望んでいないものを作るほど長くはないー
ニジボックスのUXデザイナーがセレクトした世界のクリエイターのコンテンツを翻訳してお届け!
今回はドイツのハンブルグ在住のプロダクトデザイナー、ニッケル・ブラッセさんがmedium.comに投稿した記事『Why Product Thinking is the next big thing in UX Design』を、ご本人の許可を得て翻訳転載しました。翻訳の際に、ニジボックスからいくつか質問をしたのですが、終始とてもフレンドリーに対応してくださいました。
さらに、日本人の読者にはわかりにくそうな箇所には、原文にはない特別な解説コンテンツも提供いただきました! 日本ではまだ馴染みの薄いUXデザインという言葉ですが、この記事を読めば皆さんの意外と身近なことにもその考え方がとりいれられていることに気づくはずです。一読すれば、世界の見方が変わるかも。
目次
なぜ、プロダクトシンキングがUXデザインの次の大きなキーワードとなるのか?
UX(ユーザーエクスペリエンス)を考えたとき、私たちは、ユーザーの生活を楽にするための、シンプルで美しく、使いやすいプロダクトの機能を思い浮かべることがよくあります。
しかし、実のところ機能というのは製品の一部分、製品が解決しようとする課題に対する解決策の中のひとつに過ぎません。
プロダクトについて考えることは、ある特定のユーザーの課題、やらなければいけない仕事や目標、利益について考えるということなのです。
UXの核心は、単なる便利機能ではなく、実際のところ、「ジョブ理論」で言う、ユーザーの深層の欲求である「片付けたい仕事」をこなす為に「雇う(買う)」「プロダクト(製品)」と言うことに他なりません。UberにおけるUXの核心はいつでも簡単にタクシーがつかまえられるということです。タクシーが到着するまでの時間を正確にカウントダウンしてくれる機能はUberの体験を更に向上させます。ただ、Uber自体はこのカウントダウン機能が存在しなくても利用できますが、カウントダウン機能はこのプロダクトが存在せねば成り立ちません。機能とプロダクトの間には一方通行の相互関係があり、機能はプロダクトなしにはあり得ません。これが、デザイナーがプロダクトありきで考えるべき理由です。
“Think in products, not in features”
「機能ではなく製品で考える」
Uncover the jobs the product is hired for
ユーザーの「片付けたい仕事」を明らかにする
製品には、その核心となる、そのものの存在理由ともなるUX(ユーザー体験)があります。
そのUXは人々のニーズを満たし、人々が抱える課題を解決します。そうすることで、製品は意味のあるものになり、確かな価値を提供するのです。もし、そもそも課題が存在していなかったり、解決策が課題に合っていなければ、製品は無意味なものになり、人々はそれを使わなくなるでしょう。そして徐々にその製品は衰退していきます。解決策が間違っていた場合は後で修正することができるかもしれませんが、課題が存在しなければ修正すること自体できません。では、私たちはどうしたら真の課題を見つけることができるのでしょう?100%確実だとは言いきれませんが、人を観察し、人と話すことで真の課題から大きく外れるリスクを最大限に減らすことはできるでしょう。こうして顧客が本当に求めている課題を明らかにし、解決策を打ち出すことができるのです。
„It’s not the customer’s job to know what they want“— Steve Jobs
『顧客が何を求めているかを探すのは顧客ではない』- スティーブ・ジョブズ
例えばクレイトン・クリステンセン氏は、かつてミルクセーキの売り上げを改善しようと、より甘くしたり、異なる味を発売したり、カップのサイズを少し大きくしたりしましたが、どれも上手くいきませんでした。そこで彼は直接ミルクセーキを買うお客さんの様子を観察し始めたところ、お客さんがミルクセーキを買う(雇う)理由(仕事)は、朝の通勤時間に車に乗っている間の退屈しのぎであることが分かりました。ミルクセーキが持っていた大きな利点は他の飲み物よりも腹持ちの良い濃厚な飲み物であるということだったのです。これこそが真の課題、つまり顧客自身も気づいていなかった課題でした。最終的にクリステンセン氏はミルクセーキをより濃厚にすることで、ミルクセーキの販売数を増やすことができたのでした。http://ipony.de/?p=3495
„Fall in love with a problem, not a specific solution“ — Laura Javier
『特定の解決策ではなく、課題に恋をせよ』 – ローラ・ハビエル
製品について考えることはユーザーに最適な機能を提供することに繋がる。
まず取り組むべき課題を定義することで、「なぜこの製品を作るのか?」という問いに答えを出すことができます。「誰がこのような課題を持っているのか?」とターゲット・オーディエンスを定義すること、そして「我々はどうすべきか?」と解決策を定義することは新しい機能を生み出すための十分な手助けになるでしょう。ゴールを設定することは生み出した機能の効果を測定するのに役立つはずです。
PRODUCT THINKING
USER FIRST
PROBLEMS
What problems we do solve?
どんな課題を解決するのか?
TARGET AUDIENCE
For whom are we doing this?
誰の為にするのか?
Problem-Solution-Fit
JOB-TO-BE-DONE
片付けるべき仕事
VISION
Why are we doing this?
何故するのか?
STRATEGY
How are we doing this?
どうするのか?
OUTPUT
GOALS
What do we want to achieve?
何を達成したいのか?
Measure Success
FEATURES
What are we doing?
何をすべきか?
プロブレム・ソリューション・フィット
製品はそれの与える解決策が潜在的な課題にフィットして初めて、意味のあるものになります。この解決策は課題がいかに解決されるのかを説明します。このようにして、プロブレム・ソリューション・フィットは製品の核心となるUXを明らかにするのです。具体的な機能は体験を向上させ、核心となるUXを裏付けしますが、交換することができません。インタラクションデザインとビジュアルデザインは製品を美しく、使いやすく、楽しいものにするか、競合の中でより際立った存在にすることが出来ますが、製品を意味のあるものにすることはできません。これこそがプロブレム・ソリューション・フィットが製品の成功に重要な要素である理由です。
製品の定義
製品について考える時、UXデザイナーはまず以下の質問に答えられるべきです。
「どんな課題を解決するのか?(ユーザープロブレム)」、「誰のために解決するのか?(ターゲット・オーディエンス)」、「なぜそうするのか?(ビジョン)」、「どのように解決するのか(戦略(ストラテジー))、そして何を達成したいのか(ゴール)」
そうすることにより、まさに我々がしていること(機能)について考えることが意味をなすようになります。
>
あなたのプロダクトは?
[①]のために,
我々のサービスは[②]の人々の
[③]という課題を
[④]することで解決できるだろう。
サービスがうまくいっているかどうか分かるのは
[⑤]という状態なことを確認したときである。
①‥ビジョン
②‥ターゲット
③‥ターゲットが抱える課題
④‥解決策
⑤‥ゴール
>
■UBERの場合
[①A地点からB地点まで、いつでも、どこへでも移動を可能にする]ために、
我々のサービスは、[②夜遅くまで飲み歩くのが好きな]人々の、
[③深夜、バーから家まで帰る]という課題を、
[④彼らに簡単にタクシーを呼べる方法を提供する]ことで解決できるだろう。
サービスがうまくいっているかどうか分かるのは、
[⑤新規の乗車リクエストが沢山きている]のを確認したときである。
※ニジボックス 編注) 原作者のNikkelさんに、上記の定義を分かり易くするために、具体例をお願いした所、UBERを例に分かりやすい記入例を作成頂きました。 Nikkelさんありがとうございます!
プロダクトシンキングの力
製品について考えることはデザイナーが適切な人々のために適切な機能を生み出すための強みになり、単に機能のインタラクションデザインや、ビジュアルデザインだけでなく、製品のUXを全体的に理解することに繋がります。そしてデザイナーが真の課題に取り組むことによって、誰も望んでいないものを生み出すリスクを確実に減らせるようになります。プロダクトシンキングは、機能を作り出す時にいつでも、正しい判断を下す力を与えてくれるものなのです。
“Building features is easy, building the right features for the right people is challenging”
『機能を作るのは簡単である。適切な人々のために適切な機能を作ることが難しいのだ。』
プロダクトシンキングによって、UXデザイナーは正しい質問をし、正しい機能を作り出し、ステークホルダーとより効率よく議論出来るようになります。また、デザイナーが「ノー」と言うことや、新しい機能を追加する際に一旦立ち止まることも出来るようになるでしょう。新機能の要望があったり、誰かが新しい製品のアイディアを出したりするたびに、デザイナーは正しい問いを投げかけることができるようになります。ワイヤーフレームを引いたり、思いつきのレイアウトを作ったりする前に、ー「その機能は製品に合うのか?」、「その機能は本当にユーザーの課題を解決するのか?」、「人々はその機能を本当に必要としているのか?」
最初に、これらの点に注目しましょう! そうすれば、製品を簡潔かつ効果的な状態に保てることでしょう。
まとめ
製品について考えることによって、UXデザイナーは適切な人々の為に適切な機能を確実に作り出すことができ、人々が抱えている真の課題に取り組めるようになります。正しい判断を下し、ユーザーが求める製品を作り出す原動力となるのです。プロダクト思考はプロダクトマネージャーとUXデザインの関係を有益なものにし、さらにより強力な製品をもたらします。
これこそが、プロダクトシンキングがUXデザインの次なる強力なキーワードになる理由です。
この記事をつくった人
Nikkel Blaase Product Designer
元記事:Why Product Thinking is the next big thing in UX Design
Nikkel @JAF_Designer is a Product Designer from Hamburg.
Founder of Design Made For You | Studio—www.nikkel-blaase.com
※この記事はmedium.comからの翻訳転載です。配信元または著者の許可を得て配信しています。
ニジボックスのUXデザイン
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元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
note:junmaru228