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『つながることでひろがるUXリサーチの可能性』

更新日 2022.9.2
『つながることでひろがるUXリサーチの可能性』

ニジボックス主催のイベント「BUSINESS & CREATIVE」では、毎回ビジネスとクリエイティブに関する現場発・最前線の情報を発信しています。

今回のイベントテーマは「つながることでひろがるUXリサーチの可能性」
近年注目が集まる「UXリサーチ」に焦点を当てて、日常的にUXリサーチを実践する3名の登壇者がその可能性について語ってくれました。

この記事では、イベントの参加を逃してしまった人でもそのエッセンスが分かるようにまとめました。
UXリサーチャー・UXデザイナーだけではなく、彼らとどう連携すればよいのかを知りたいマーケターやUIデザイナー、プロジェクトマネージャーにもぜひ読んでいただきたい内容が詰まっています!

目次

【オープニング】UXリサーチの結果をきちんと「活用」していくために

オープニングでは、モデレーターを務めるニジボックスの執行役員・丸⼭潤がイベントの概要を説明するところからスタートしました。

最近、UXというものをいろんな企業で導入しているのですが、「カスタマージャーニーを作ったけどそれ以降更新されていない」といったケースを見ることが多いと感じています。
取り組むんだけど継続性がないことが課題だと思っていて、その原因をずっと考えていたんです。

大きな原因のひとつは、UXリサーチが単独組織で、横断的にリサーチ結果を活用されていないことではないでしょうか。
そこで今回は、営業やマーケティング、UIデザインや開発などの、さまざまな領域とUXリサーチが「つながる」ことでいろんな可能性が生まれるんじゃないか、ということをテーマにしたいと思います。
リクルート、メルペイ、弊社ニジボックスでそれぞれUXリサーチャーとして活躍されているスペシャリストの3名に語っていただきます。

UXリサーチで得た学び、どうプロダクトに反映してる?/株式会社リクルート UXリサーチチーム リーダー 大草 真紀(べぢまき)

最初に登壇したのは、リクルートでUXリサーチチームのリーダーを務めている大草 真紀さん。
日々、ユーザーインタビューや新規事業のための定性・定量調査、リサーチチームの運営をする中で得た知見を語っていただきました。

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「事業目的=案件化につながらないインタビューでは意味がない」

今回、リクナビ派遣というサービスのメルマガ企画チームからこんな調査依頼がありました。
「ユーザーインサイトから案件を作成したいのでユーザー調査をしたいです。」

これを受けて、ユーザー理解を目的としたデプスインタビューをしましょう、という流れになりました。
具体的には、ユーザー属性ごとに4セグメントに分けて、計24人分のインタビューを実施。

インタビューは無事完了し、新たな気づきもたくさんありました。
しかし、ここで「困りごと」が発生しました。
そもそもの事業目的である「ユーザーインサイトからの案件作成」に現状のままだと繋がらなさそうなことがメルマガチームと会話してわかったのです。

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改めて、調査依頼を振り返ってみます。
今回の事業目的はユーザーインサイトから案件を作成することでした。
そして、そのための手段にユーザー調査を選びました。
ユーザー調査の目的はユーザー理解で、その手段がデプスインタビューでした。

今回のインタビューで、調査目的、つまりユーザー理解は完了しました。
しかし、それが事業目的につながっておらず、「さて、どうしたものか…?」という状況になってしまったのです。

「案件化のため、リサーチャーという役割を超えてワークショップを開催」

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インタビューによって得られたユーザー理解と、事業目的達成の間にあるギャップを埋めるため何をすべきか、メルマガ企画チームのみなさんと議論をしました。
その結果、企画案出しをするためのワークショップを開催することになりました。

今まで、メルマガ企画チームは定量データを利用した案件化は経験していたのですが、定性データを使った案件化の経験はありませんでした。
そこで、ワークショップを通して企画案を考えることを提案し、私がワークショップ設計とファシリテーションをすることに。

私は今回リサーチャーという役割でこの案件に入り、リサーチ実施自体は完了していました。
でも、そこで終わりではなく、リサーチ結果を元に案件を作る動きにまで関わるという、「役割を超えて染み出すスタンス」が良い結果につながったと感じます。
事業目的という最終ゴールに向かって、関係者全員で「何が課題だろう?」「何をすればいいんだろう?」と考えることの重要性が、今回の事例で私自身大きな学びとなりました。

「“プロジェクトメンバー全員”がワークショップに参加し、一緒にペルソナを作った」

ワークショップでは、リサーチ結果を元にしたペルソナの作成と、そのペルソナを踏まえた企画案出しを実施しました。

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ここでも大事なのが、やはり「役割を超えて染み出すスタンス」です。
ペルソナの作成は、リサーチャーが行うことも多いと思いますが、プロジェクトメンバー全員でペルソナを作り上げることで理解度と納得度がアップし、メンバー全員に共通認識が生まれました。
逆に、リサーチャーである私も企画案出しに参加することで、普段と違う観点からの企画が生まれることに。

なお、弊社は現在、原則在宅勤務のため、その中でのワークショップということで設計時にいろいろと工夫しました。
例えば、オンラインワークは周囲に人がいないことで集中力が切れがちになります。
そこで、設計と事前準備を念入りにすることでコンパクトな進行を心がけました。
オンラインホワイトボードなどのツールを上手く使うことも重要ですね。

また、普段企画を考えるときとは異なるプロセスや観点で考えてもらうような工夫も取り入れました。
例えば、メルマガ企画チームは普段、定量情報を元に企画を出しているので、敢えて定性情報だけで企画出しをしてもらいました。
1テーマに対して8つの企画案を8分で考える「crazy 8」という手法で取り組んでもらったのも、面白い企画が出るきっかけとなりました。

「リサーチをしたことでチームに起きた“変化”とは?」

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今回のリサーチやワークを通して、リサーチ依頼者であったメルマガ企画チームにさまざまな変化が起こりました。

ひとつは、ユーザー理解度に関する変化
リサーチ前は、ユーザー理解の機会もなかったため、ユーザー視点での会話も少ない状態でした。
しかし、リサーチ後には理解度が高まり、「インタビューではユーザーってこう話してたよね。だから、メールの件名も変えた方が良い」といった具体的な議論が活発になったのです。

もうひとつ、案の内容にも変化が生まれ、数も増加しました。
リサーチ前は、社内他サービスでの成功事例の横展開や、行動ログ分析を元にした改修にとどまっていました。
リサーチ後はこれらの手法に加えて、定性情報のユーザーインサイトを踏まえた案件内容に。
定量だけでは分からなかったことを、定性によって理解できるようになり、より良い案件につながったと感じています。
また、企画案の数もリサーチ前と比べ12倍、案件FIX数は150%と大きな伸びがありました。

今回の事例を踏まえて、特にリサーチャーの方にお伝えしたいのは、調査結果が出たらはい終わり、ではなく、プロダクト改善できる状態になることがゴールということです。
調査が終わった段階でそれがプロダクト改善につながる状態になっているよう設計できるのがベストですが、もしそうなっていなければ、プロジェクトメンバー全員で「次に何をすべきか」を議論することが重要です。

■大草さんの登壇資料はこちら!

定量VS定性ではなく、定量×定性にする方法/株式会社ニジボックス UI/UX制作室 UXデザイナー 横井 沙紀

次は、株式会社ニジボックスでUXデザイナー/ディレクターとして活躍する横井 沙紀さんが登壇。
新規事業起ち上げ支援からプロダクト改善まで幅広く案件を経験してきた横井さんに、定量と定性を上手く組み合わせる方法について語っていただきました。

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「ユーザビリティテストをやったけど、課題が全然見つからない…?」

ユーザビリティテストをやったことがある方は多いと思いますが、その中で「課題が全然見つからない」という課題に直面した経験はないでしょうか?
せっかくお金と時間をかけてテストをやったのに、「たいした課題が出てこない」「テストするまでもなく発見できそうな課題しか出てこない」といった、弊社でもそんな課題によく直面していました。

そこで注目したのが、定性調査と定量調査を組み合わせるという手法です。

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この手法について解説する前に、定性調査と定量調査についてそれぞれ定義を確認しておきましょう。

定性調査とは、数値化できないデータを収集し、分類・構造化する調査方法です。
その特徴は、ユーザーの価値観や心理を深く知ることができる点です。
一方定量調査は、数字を分析することで、集団の全体像や傾向を把握できるのが特徴です。

一見すると、定性調査と定量調査は対極の位置にあるため、組み合わせるのは難しそう…と感じるのではないでしょうか?
しかし、最近ではこの2つを組み合わせて活用する企業やリサーチャーも増えてきています。

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組み合わせのやり方は、定性調査を行った後に定量調査を行う方法と、定量調査後に定性調査を行う方法の2パターンであることが多く見られます。
しかし、これだけでは具体的にどのように組み合わせ、活用していくのかイメージが湧きづらいと思うので、本日はその部分を実例に基づいて詳しく解説します。

「定量調査⇔定性調査→(再び)定量調査」

ニジボックスでは、先ほど紹介した2パターンの組み合わせ方ではなく、第3のやり方で組み合わせています。

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それは、調査設計の段階で定量と定性を行き来し、その設計を元に再び定量調査を実施するというやり方です。

このように複雑な工程で進めるようになったきっかけは、とある登録フォームの改善プロジェクトでした。
このプロジェクトは、実施期間が3か月となるなど厳しい制約条件があり、その中でもなんとか結果を出さなければならないということで、通常のやり方では難しいと感じていました。

カギとなるのは、3か月という限られた期間の中でどれだけ影響度の高い施策を実施して改善率を上げるのか、ということ。
そこで、通常はこのようなプロジェクトの場合、定性調査であるユーザビリティテストのみを実施して課題を見つけていくのですが、ここに定量調査も組み合わせることにしました。
定性調査だけでは発見できない課題を、定量調査を通して発見することで、効率良く影響度の高い課題の発見を目指したのです。

ここからは、実際にどのように進めていったのかを解説していきます。

まず、定量調査でフォームの遷移率や各項目の入力率を分析し課題を抽出、仮説立てを行いました。
このプロジェクトのサイト自体は、デザイン性が高く見やすいUIだったのですが、そういったサイトでもデータ分析を行うと意外なボトルネックを発見できることが多いです。

ここで発見した課題を元に、次は定性調査を行います。
具体的には、社内でのヒューリスティック分析(専門家視点でのサイト評価)を実施し、課題の原因を突き止めにいきました。
ヒューリスティック分析での気づきを定量調査チームにフィードバックするなど、行き来することで課題の「あたり」をなるべく精度高いものにするよう工夫しました。

課題を捉えたところで、ユーザビリティテストを実施します。
ポイントは、調査から導き出した課題を重点的に検証できるようなタスクを設計することです。
また、ユーザビリティテスト後にヒアリングを実施することで、「問題なく利用できた」というユーザーに対して、潜在的な課題を深掘りする点も重要です。

ユーザビリティテストを終えたら、通常はその結果を分析して施策を決めていく…という流れになるのですが、このプロジェクトではもう一度定量調査に戻りました。
この調査で行ったことは、最初の定量調査では出てこなかった課題のデータ分析です。
分析対象となる課題が、一般的なユーザーにとってつまずいたポイントなのか、たまたまユーザビリティテストをしてもらった対象者だけがつまずいたポイントなのかを見極めることで、影響度の高さを計ることができます。

ここまで来て、ようやく課題に対する施策を決定し、改善のための実装を行いました。
その後、施策の効果測定をするため、再び定量調査です。
調査を通して分析した課題が筋の良いものだったのか、施策が解決に結びついていたのかを測定します。
このプロジェクトでは、嬉しいことに大きな改善が得られ、クライアントの満足度も高いものとなりました。

「定性×定量によって、信頼性が高まり効率化が進む」

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定性と定量、この2つの調査を組み合わせるメリットは、2つあります。

ひとつは、調査の信頼性が高まることです。
調査人数は限定的だけど、その分深いところまで調査できるのが定性調査。
一人ひとりの細かいところまではフォーカスできないけど、全体の傾向を把握するのに向いているのが定量調査です。
定性と定量を組み合わせれば、それぞれのデメリットを補いつつ、より信頼度の高い調査結果を得ることができます。
よく「ユーザビリティテストって5人だけにするものでしょう?それで何が分かるんでしょうか?」といった声を聞きますが、「定量調査で得られた課題をより深掘りするためのテストなんです」と説明すると、納得していただけることが多いです。

もうひとつのメリットは、調査の効率性が高まることです。
定量調査の結果に対して、その原因を探索する定性調査を行いますので、仮説のない状態でとりあえずユーザビリティテストをやってみる、といった進め方より効率的に調査できます。

「プロジェクトの目的によって最適なフローを考えるべき」

ここで、定性と定量を組み合わせた調査が効果を発揮するサービスについて考えてみました。
例えば、定量調査で改善PDCAを回している中で、最近効果がいまいち…というサービスであれば、そこに定性の視点を加えることで課題解決のヒントが得られるかもしれません。

また、メディアサイトのようにコンバージョンが明確に存在しないサービスにも向いていると思います。
コンバージョンが明確でないサービスは課題の抽出が難しいことが多いので、ユーザビリティテストのタスクも設定しにくいものです。
そんなときは、定量調査をすることで効率良く課題抽出できれば、より効率的に調査を進めることができます。

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今回紹介した定性と定量の組み合わせ方は、あくまで最初に紹介したプロジェクト用にカスタマイズしたもので、全てのプロジェクトでこのやり方をすれば良い、というわけではありません。

プロダクトのリニューアルなのか、運用なのかなど、プロジェクトの目的によって最適なフローは異なるので、調査を始める前の設計をしっかりと行う必要があります
その設計をする上で、大前提として重要なのは、定性・定量それぞれの特性を理解し、各チームが協力してプロジェクトを進めるのを念頭に置くことです。
そうすれば、お互いが最大限の力を発揮できるのではないかと考えています。

「データを誰もが扱う必要のある未来がすぐそこに来ている」

少し余談になりますが、最後に「データ」の未来についてお話をさせてください。

最近よく、企業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)推進について耳にします。
これが進むと、さまざまな情報が可視化し、これまでデータを扱うことのなかった職種の方も、定量データを元に自分の業務を進める必要性が出てくるでしょう。
さらにAIなどの技術発展で、データの分析まで自動化されるため、誰もがデータとつながって、誰もがデータを扱う必要のある世の中になるのかな、と思います。

利用前からはじまるUXリサーチ/株式会社メルペイ デザインチーム UXリサーチャー 松薗 美帆

最後に登壇してくれたのは、株式会社メルペイのUXリサーチャー、松薗 美帆さんです。
業務としてのUXリサーチにとどまらず、大学院でビジネスエスノグラフィを研究し、UXリサーチの実践本も執筆されているとあって、産学の経験を活かした貴重なお話をしていただきました。

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「サービス自体に価値がないと意味がない」

メルペイは、フリマアプリを提供する株式会社メルカリのグループ会社・株式会社メルペイが運営するスマホ決済サービスです。
スタートアップでは珍しいのですが、弊社にはUXリサーチ専門のチームがあります。

今日は、UXリサーチャーである私が、マーケティング担当のみなさんとどのように協働しているかをお話しできればと思います。

まずは、私のキャリアを振り返りつつ、私がマーケティングやUXデザインとどのように関わってきたかをお話しします。
最初のキャリアはマーケティングで、後にUXデザインに関する業務に携わっていました。

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マーケティングを実施する中で私が思っていたことは、「どれだけ予算を使って、工夫を重ねて集客を頑張っても、サービス自体に価値がないと意味がない」ということです。
どれだけお客さまに知っていただいても、サービスがその方にとって価値がなければすぐ離脱してしまうことに、歯がゆさを感じていたのです。

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一方、UXデザインの部署に移動してからは、「どんなに良いサービスを作ったとしても、知ってもらい体験してもらわないと意味がない」と感じるようになりました。

2つの立場を経験したことで、マーケティングもUXデザインもどちらも大事、ということを肌で感じたのが原点としてあります。

「UXリサーチを5段階モデル×時間軸でマトリクスに整理すると…」

だからこそ、今UXリサーチャーという立場で、マーケティング組織といかに協働するかを常に考えています。
そのお話の前に、UXリサーチを実務として経験されたことのない方に向けて、その業務範囲についてご紹介しましょう。

UXリサーチと一言にいっても定義はさまざまですが、メルペイの業務においては「UXデザインを行う上で分からないことを明らかにする手法・手段」としています。
つまり、業務範囲はUXデザインの範囲と同じと捉えていただければと思います。

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有名な「UXデザインの5段階モデル」はご存知の方も多いと思いますが、この表層~戦略までの5段階はUXリサーチにおいても同様に捉えていいと思います。

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一方、UXを期間で捉えたとき、(プロダクトの)「利用前」「利用中」「利用後」「利用時間全体」の4つの期間で表されますが、リサーチにおいても同じ考え方が可能です。

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以上を踏まえて、UXリサーチの対象となる領域をマトリクスに整理すると、上図のようになります。
UXリサーチって、「UIの検証だけするんでしょ?」とか、「利用中のリサーチのことだよね?」と思われがちですが、実はプロダクトの戦略に関する抽象度の高いことも扱いますし、プロダクトの利用前から利用後まで幅広く扱うことを理解していただければと思います。

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上図はあくまで例ですが、時間軸ごとに担当部署がサイロ化していることが現実的には多いです。
利用前はマーケティングの領域、利用中・利用後はプロダクトチームが担当、利用時間全体はCRMでまた別の部署…のようになりがちなのです。
しかし、UXはどの時間軸も対象としており、お客さまにとっては一貫した体験ができることが望ましいので、このような縦割りは悪い影響を与えかねないと考えています。

「UXリサーチを“サービス利用前”からはじめるための3事例」

先に解説したように、一貫した体験をお客さまに提供するため、マーケティング組織と協働して「サービス利用前からUXリサーチをはじめた」事例をご紹介します。

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1つめの事例は、キャンペーンCMの調査です。
メルペイをリリースした直後、ゴールデンウイークに大きなキャンペーンを実施したのですが、そのためにマーケティングチームがキャンペーンの企画やCMの制作をやっていました。
そのCMの撮影が終わり、仮編集の段階のものがあがってきたところで、これがお客さまに正しく伝わるのか評価してほしいと相談を受けたのです。

ある程度CM制作が進んだ状態での着手だったので、改善できる対象は5段階モデルの表層の部分のみ、というプロジェクトでした。
ここで何かクリティカルな課題が見つかったとしても、そもそもキャンペーン全体を見直すとか、再撮影をするなどの余裕はありませんので、主にナレーションやテキストの改善点を見つけることに絞って進めていきました。

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2つめの事例は、キャンペーンLPのユーザビリティテストです。
CMでも告知したキャンペーンについてLPを作るということで、比較的早い段階に相談を受けたので、何度かユーザビリティテストをする中で情報設計やデザイン、テキストの改善を提案することができました。

この事例では、1つめの事例のときよりは携わる範囲が増えました。
表層の部分だけではなく、骨格・構造といったレイヤーにも踏み込んで提案できたのです。

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3つめの事例は、メルカリの売上金をポイントとして送ることができる「おくる・もらう」機能の調査です。
このプロジェクトでは、アンケート調査からマーケティング戦略を策定するフェーズから携わりました。
メルカリ利用者を対象としたアンケート調査では、家族間での送金シーンがユーザーに受け入れられそう、という結果が出たため、そこにフォーカスしたCMを制作することに。

また、キャンペーン自体のコンセプトテストも行いました。
いくつかキャンペーンのアイデアを出した上で、コンセプト段階のラフをコンセプトテストし、その中で評価が高かったものを実際のキャンペーンに反映しました。
このプロジェクトでは、戦略部分からはじまり、表層の部分まで幅広く携わることができたと思います。

この3事例を通してお伝えしたいことは、UXリサーチが他部署と協働するにあたって、最初から広い範囲に踏み込むのではなく、徐々にその領域を広げていくとスムーズということです。
最初は表層に関する改善でも、そのプロジェクトで信頼を得ることができれば、「次はこんなことをしたいのですが」という相談も増えるはずです。

今後は、利用前だけではなく、利用後、利用時間全体なども他チームと協働しながら、「より一貫した体験の設計」に携わっていきたいと考えています。

松薗さんが登壇資料やQ&Aで答えきれなかった内容も含めてnote.にまとめられています!
利用前からはじまるUXリサーチ @ BUSINESS&CREATIVE
■松薗さんの登壇資料はこちら!

登壇者によるQ&A

イベントの最後は、視聴者からいただいた質問について登壇者が回答するQ&Aのコーナーが設けられました。

「Q.ユーザーインタビューの対象者がマジョリティなのかマイノリティなのかはどう判断する?」

A.定量データから判断。あとは経験から判断できる。

大草さん「よくやるのは、インタビュー後に定量調査を実施して、インタビューで発見したことが市場に対してどのくらいボリュームがあるものなのかを判断する方法です。もうひとつは、自分が長く関わってきた領域であれば、過去の経験からたくさんのデータが頭に入っているはずなので、その経験を元に判断することも可能です。」

松薗さん「私も同じ領域に長く携わっているので、感覚として『この人はレアケースかもしれない』といったことは分かります。でも、マイノリティと思われる人だとしても、そのお客さまから学べることはたくさんあります。エクストリームユーザーであるが故に、新規事業のための面白い視点を得られる場合も。マイノリティだからといってその方の意見を切り捨ててしまうのはもったいないですね。」

「Q.マーケティングリサーチャーとUXリサーチャーの違いは?」

A.UXは個人に着目、マーケティングは市場に着目。

松薗さん「ちょうど今日、社内で『UXリサーチは個人に着目して、マーケティングリサーチは市場・ダイナミズムに着目する違いがあって、そのための手法も異なる』という話を聞いて、なるほどなと思いました。あとは、マーケティングリサーチってマーケティングに活かすものなので、UXリサーチとアウトプットが異なるし、切り口も変わってきます。マーケティングには比較的大きな予算がかかるので、より慎重に量的な調査が必要になると思います。一方でUXリサーチは、開発サイクルの中でアジャイルに進められるかが重要なので、一つひとつのリサーチはライトに実施されることが多いのかもしれません。」

丸山さん「違う部分もありますが、共通する部分ももちろんあって、これこそまさにお互いが壁を作らずに協働して、役割を染み出していくことが重要ですよね。UXリサーチャーがマーケティングリサーチャーのことを知って、逆にマーケティングリサーチャーがUXリサーチャーのことをもっと知れば、より良いプロダクトが生まれる気がします。」

「Q.役割を超えるために周囲をどう巻き込んでいくか?」

A.リサーチ段階の前から積極的に関りを持ち、他部署の人にも一度リサーチを体験してもらう。

大草さん「リサーチャーは調査の段階でジョインすることが一般的ですが、その前の段階から関わることを意識しています。定例に参加してみたり、役立ちそうな資料を共有したりすることで信頼してもらえると『この人に相談しよう』と言ってもらいやすくなります。役割を超える=やることが増えて大変、という印象を持たれる方も多いかもしれませんが、いつも同じことをやるより、違うことをやる方が楽しいって考えてみてはどうでしょうか?確かにやることは増えるかもしれませんが、その分優先順位が低い業務を減らす手もありますし。」

横井さん「UXデザイナーが何をやっているのかを、他の職種の方に一緒に見てもらうことを心がけています。例えばUIデザイナーと一緒にユーザビリティテストを実施して分析するとか。あとは、今リモートなのでできていないのですが、営業もUIデザイナーもエンジニアもひとところに集まって、お互いがどんな仕事をしているのかを見えるようにするのもいいですね。リモートだったら社内定例で情報共有するとかでしょうか。」

松薗さん「UXリサーチってどんなことができるのかを分かってもらうことは重要ですね。他部署の方に積極的に声をかけて、なるべくUXリサーチという言葉を使わずに『こんなことができますよ』と説明します。あとは、一回一緒にリサーチをすると、その重要性を理解してもらえます。そうなると、リサーチを他部署の方も巻き込んでやる環境も作ることができるかもしれません。」

【お知らせ】BUSINESS & CREATEVE online 次回5/27開催!

開催テーマは『グローバル企業のプロダクト開発最新トレンド』です。
近年プロダクト開発において「ユーザーにどんな体験を提供するのか?」を意思決定の根幹におく、デザイン思考やUXデザインでのアプローチが重要視されています。

日本国内にとどまらず世界に目を向けた時、サービス開発の先端を行くグローバル企業では、デザインプロセスを開発の現場にどのように組み込んでいるのでしょうか?

今回は、グーグル合同会社 Search UXチーム シニアユーザーエクスペリエンスリサーチャー 矢野 紘子さん、Pendo.io Japan 株式会社 カスタマーサクセス ディレクター 大山忍さんをお招きし、日本企業でもいち早くフォローしたい、最新の開発事情を本ウェビナー限定でご共有いただきます!
ご興味のある方はぜひご参加ください。
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また、ニジボックスではオンラインイベントの設計・開催を多数手がけています。
オンライン全社イベント、オンラインセミナー、オンラインワークショップなど、イベント趣旨に沿って設計から映像制作までワンストップでご支援いたします。
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