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持続的な組織の成長とは? 〜チーム構築とビジネスグロースの両立を考える〜

持続的な組織の成長とは? 〜チーム構築とビジネスグロースの両立を考える〜

2022.5.19

ニジボックス主催のイベント「BUSINESS & CREATIVE」では、毎回ビジネスとクリエイティブに関する現場発・最前線の情報を発信しています。
今回のイベントテーマは「持続的な組織の成長とは?チーム構築とビジネスグロースの両立を考える」
良いプロダクトやサービスを生み出すためには良い組織作りが必要ですが、実際に組織のリーダーたちは日々どう課題に向き合い、どう解決しているのか?
開発組織のリーダーとして組織の成長を目指す3名をお迎えし、生々しい現場での事例も交えて語っていただいた当イベントをレポートします。

職種問わず、「組織のリーダーとは?」「組織の成長のためにすべきことは?」といったことに頭を悩ます全ての方必見です!

目次

オープニング

今回モデレーター兼パネリストを務めた、株式会社リクルート・株式会社ニジボックスに所属する古川陽介の自己紹介と、2名のパネリストの紹介からイベントがスタートしました。

開発組織の持続可能性について/株式会社リクルート・株式会社ニジボックス 古川陽介

最初に登壇したのは、株式会社リクルート・株式会社ニジボックスの古川陽介さん。
個人の成長をグループの成長、ひいては会社の成長へとつなげていくための組織論やリーダー論を解説していただきました。

「個人の成長、グループの成長、会社の成長」

成長と持続というのは切っても切り離せないものです。
これは、個人にもグループにも会社にも言えること。
では、持続的な成長を可能にするにはどうしたらよいのでしょうか?
これが、今回古川さんがお話する骨子です。

開発者個人の成長の定義

リクルート古川陽介

まずは「個人の成長」について、古川さんは「できないことができるようになったこと」と定義します。

具体的には、次のようなものが挙げられます。

  • 新しい技術を身に着けてできることが増えた
  • 最初は1日2日と時間がかかっていた実装が、1時間や2時間でできるようになった
  • 1人で機能を担当して設計実装テストまで全部やりきるようになった

それぞれ角度は違えど本質は同じで、「できないことができるようになった」ということです。

グループの成長の定義

次に、グループの成長の場合はどうでしょうか。
古川さんは、「担当できるフィールドの多い、頼りにできる人が増えている状態」と定義しました。

例えば、次のようなことです。

  • 任されるタスクの数がグループレベルで増える
  • 任せられるタスクの質が上がる
  • 任せられる人の数が増える

「大切なのは、烏合の衆で人数だけが増えているのではなく、誰か1人だけが成長しているのでもなく、『グループ全体で成長できていること』です。」(古川さん)

会社の成長の定義

古川さんいわく、会社の成長には以下3つの要素があるとのことです。

  1. 利益の拡大
  2. ブランドの拡大
  3. ビジョンの達成

代表的な会社の成長要素は、営利企業ならば利益の拡大と、次にブランドの拡大と言えるでしょう。
分かりやすく目に見えるバリューの拡大です。

そしてもうひとつ、会社の成長において忘れてはならないのが「ビジョンの達成」と古川さんは語ります。
「例えば社会貢献など企業ごとに掲げているビジョンがありますよね。利益拡大とブランド拡大でお金は稼げるようになりますが、それが持続可能かは別問題。ビジョンの達成は、会社の成長において最も重要と言っても良いでしょう。」(古川さん)

利益だけを追い求めている会社は、もちろん先立つものとしての「お金」という意味では成長していますが、本当の意味で成長していると言えないのかもしれません。
「自分たちが最終的に目指していくべきものは何なのか、それを達成しようとすることが会社の成長につながります。」(古川さん)

ちなみに、ニジボックスの掲げるビジョンは「サービスグロース分野における想起率No.1」、リクルートは「Follow Your Heart」です。

個人→グループ→会社の成長はつながるか

ここまで、個人・グループ・会社それぞれの成長を定義してきた古川さん。
個人ができることが増えるようになり、個人の成長がグループの成長につながって、グループの成長が会社の成長につながっていく、そんな状態が理想であり、目指していきたい姿と語ります。

しかし、実際にはこのようにうまくはいかず、個人の成長→グループの成長→会社の成長と一直線につながることは稀だそうです。
では、どうすれば良いのでしょうか?

「一直線の成長を描くために会社が考えるべきこととは?:『ビジョナリーカンパニーZERO』からの学び」

「ゴール同士の乖離がズレを生み、そしてそのズレが成長の持続性を削ってしまいます。」と古川さんは語ります。
個人とグループや会社、あるいはグループと会社で、目標が異なっていることで成長を感じられない状態を経験された方も多いのではないでしょうか?

ここからは、この「ズレ」を少なくするために会社が考えるべきことを、エンジニア(個人)・グループマネージャー(グループ)・経営(会社)を経験した古川さんならではの目線と、彼が参考にしてきた書籍『ビジョナリーカンパニーZERO』の知見を交えて提唱していただきました。

  1. 何よりもまず人である
  2. 第5水準の原則
  3. 速く成長しすぎてはいけない

の3つに分けて解説していきます。

1.何よりもまず人である

個人・グループ・会社の「ズレ」を少なくするためには、『ビジョナリーカンパニーZERO』に記された「何よりもまず人である」という考えや、それにのっとった人材配置が重要、と古川さんは考えます。

本書には良い企業と偉大な企業という言葉が出てきますが、この本が定義する偉大な企業とは、時代を超えて存続し続けられる企業のこと。
偉大な企業では必ず「正しい文化のもとで正しい人材が働いている」と言います。
例として、本書では「2人のスティーブ・ジョブズ」の話が出てきます。
わがままで粗野で野心家だった「スティーブ・ジョブズ1.0」と、のちに偉大な企業になるために正しい文化のもとで正しい人材をいかに養成するかに注力した「スティーブ・ジョブズ2.0」が描かれています。

この例から古川さんが学んだことは、「マネジメントに適切な人物を選ぶことが重要」ということです。
もしもマネージャーに不適切な人を選んでしまったら、その人の下で働く人がやめてしまうだけではなく、会社のビジョンや文化が毀損されることにもなってしまうのです。

また、偉大な企業にいる偉大なリーダー(マネージャー)は、次のような特性があると言います。

  • 人の「成長する力」を過小評価せず、強い向上心を求める
  • 人のせいにしない、自分の責任にすること
  • 「業務」ではなく「責任」と捉えられる

この特性はマネージャーを選ぶ基準として参考になりそうです。
向上心があり、他責思考でなく、自身の責任として仕事を捉えられる人材をマネージャーにすれば、「正しい文化のもとで正しい人材が働いている」状態に近づくかもしれません。

2.第5水準の原則

次に古川さんは「第5水準の原則」という言葉を紹介します。
これは、偉大な企業として成長していく優れた企業には、次の5つの水準が備わっている、ということです。

  • 第1水準:個人スキル
  • 第2水準:チームワークスキル
  • 第3水準:管理スキル
  • 第4水準:リーダーシップスキル
  • 第5水準:第1~4基準を全て備えた上で、大義(会社やビジョン)のために尽くす能力

この第5水準を持つリーダーがいるかいないかで、偉大な企業になるかどうかが決まるそうです。
第5水準を持つリーダーは野心的で、全精力を会社と大義のために注げる人材です。

特に、社長やCEO、CTOなど経営に携わる方は、この水準を備えているかを自身に問いかけてみると良いかもしれません。

3.速く成長しすぎてはいけない

『ビジョナリーカンパニーZERO』からの3つ目の学びは、少し意外なものかもしれません。

企業というものは当然、速く成長したいと考えるものだと思います。
しかし、実際は社内のマネジメント能力が育つのに合わせて成長する必要があるといわれています。
急ぐあまり無理に成長しようとすると、企業の価値が損なわれることにもなりかねないのです。

なぜ、速すぎる成長が企業価値を損なうのでしょうか?
それは、次のような事実や現象が証明してくれます。

  • 企業の倒産のほぼ半分は記録的売上があった翌年に起きている事実
  • 急激に人が増えることで、組織を複雑にし、コミュニケーションを悪化させる
  • 急成長によって文化が希薄になる
  • 誰でもいいから採用してくれという状態になり、企業の文化を壊してしまう

経営は、もちろん会社の成長を見据えなくてはなりません。
しかし一方で、会社にとって大切な文化も損ねてはならないと古川さんは強調します。
「それにはやはり、どういう人材をマネージャーに選ぶか、そして経営陣とマネージャーの会話や目線合わせが常に大切になってきます。」(古川さん)

「信頼感と親近感があるマネージャーになるために:『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』からの学び」

次はマネージャーの側面から、組織の持続的な成長に貢献するための指針を、『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』からの学びとともに3つの話をしていただきました。

  • メンバーとの信頼感と親近感を得る
  • 継続的なフィードバック文化を作る
  • ブリリアントジャークへの対処

の順で解説していきます。

1.メンバーとの信頼感と親近感を得る

まず、大前提として継続的1on1(マネージャーとメンバーが1対1で行う定期的な面談)は必須です。
その上で、本書ではメンバーからの信頼感と親近感を得ることの重要性が記されています。
任せられた仕事をきっちり行ったメンバーに対して「よくやったね」といったフィードバックで信頼を得ていきます。
加えて、普段から関係性を作っておき、親近感を形成します。

逆に、信頼感と親近感が損なわれるのは次のようなときです。
信頼感が損なわれる例:仕事を任せられず細かくチェックされる、放任されて何もフィードバックされない
親近感が損なわれる例:1on1を勝手にスキップされる、忙しそうで声をかけにくい

2.継続的なフィードバック文化を作る

次にマネージャーがやるべきことの指針として古川さんが紹介してくれたのが、「継続的なフィードバック文化を作る」ことです。

具体的な手法として挙がったのが、勤務評価、PDCA、KPTなど定期的に振り返るタイミングを作り、内省とモチベーション付けを促すこと。
また、メンバー個々の振り返りの場などで話してもらうのも有効だそうです。

理想は、普段からなりたいエンジニア像や、それにどうしたらなれるかを日常会話レベルで話し合える関係、文化が作れている状態と古川さんは語ります。
定期的な振り返りは重要ですがともすれば義務化してしまうので、マネージャー・メンバーがお互い能動的にコミュニケーションを取れる文化があれば、個人とグループの成長が一直線になりやすいのではないでしょうか。

3.ブリリアントジャークへの対処

ブリリアントジャーク(Brilliant Jerk)とは、エンジニアとしては優秀だけど自己中心的で周りに悪影響を与えるような人物のことです。
例えば、同僚や部下を辛辣な意見で切り捨ててしまうなどの問題行動があり、ブリリアントジャークがいることで退職者が出たりすることもあります。
みなさんの周りにも、思い当たる人はいませんか?

「このように会社の文化を毀損する人、問題行動を起こす人がいたときには、きちんと間違えずに対処する必要がある」と古川さん。

日本において解雇はなかなかできないケースが多いものですが、マネジメントの立場でできることは、どれほどエンジニアとして優秀であっても、そうした人物を昇進させないこと、余計な権利を与えないことだそうです。

「『つながっている組織』こそが持続可能な組織」

ここまで、経営(会社)とマネージャー(グループ)の側面からそれぞれ、個人・グループ・会社の成長を一直線にするために考えたいこと・やるべきことについて解説していただきました。

個人・グループ・会社の成長は、まっすぐにつながらない状態が当たり前です。
それをつなげていくのが、リーダーシップでありマネジメントであり、経営努力だと古川さんは語ります。
そして、これらがつながっている組織こそが、持続可能な組織だとも。

古川さんのように、エンジニア・マネージャー・経営を経験すれば、それぞれの気持ちを理解できて非常に有利です。
今すぐに経営に携わるのが難しい方も多いと思うのですが、そんな方でも「押さえておきたい原則」があるそうです。
最も大切なのは相互理解です。1メンバーであっても、マネージャーや経営層がどう考え、見ているのかを理解する姿勢を持つと良いでしょう。逆もまたしかりです。そして、常にお互いの状況を見えるようにしておく『透明性』が確保されていると、相互理解も促されます。」(古川さん)

登壇の最後は、古川さんが『ビジョナリーカンパニーZERO』から感銘を受けた次の3つの言葉で締めくくられました。

  • リーダーシップとは「従わない自由があるにもかかわらず、人々がついていくること」である
  • リーダーシップとは「部下にやらなければならないことをやりたいと思わせる技術」である
  • リーダーシップとは「サイエンス(理屈)ではなくアート(技能)」である

経営層・マネージャーそれぞれの側面で、その指針となることを丁寧に紹介してくれた古川さんの登壇でしたが、通底するのは最後に出てきた「リーダーシップとは?」であったように思います。
特に「サイエンスではなくアートである」という言葉から、「大事なのは人で、人は全て理屈で動くわけではないから、合理性や効率ばかりを追い求めず、ビジョンを大切にするアーティストのような視点を持つこと」が持続的な組織の成長につながるのでは、と考えさせられました。

■参考書籍
ジム・コリンズ ビル・ラジアー 著、土方 奈美 訳(2021)『ビジョナリー・カンパニーZERO ゼロから事業を生み出し、偉大で永続的な企業になる』日経BP

継続的な組織の成長/株式会社ニジボックス 齋藤拓

次に登壇したのは、株式会社ニジボックスの齋藤拓さんです。
バックエンド・フロントエンド組織のマネージャーとしてメンバーの育成に携わり、多くの課題に向き合う中で見えてきた「組織成長論」を語っていただきました。

「夢ばかりは見られない受託開発・制作の実態」

ニジボックスには、様々な会社から相談をもらって受託案件をこなすチームがあり、登壇者の齋藤さんもそこに所属しています。
受託している案件は、LP制作、サイトリニューアル、CMSの導入、サーバー反映など、多岐に渡ります。

その中でも、圧倒的に多いのがHTML作成で、保守性よりも品質・納期が大事なことが多いとのことです。

いわば「現実的な案件」が多く、Next.jsやReactのように「フロントエンド憧れの案件」は少ないと齋藤さんは語ります。
「Webフロントな人がやりたい、華やかにスキルを活かせる案件は、かなり少ないのが実情です。需要と開発者の気持ちに乖離があると日々感じています。」(齋藤さん)

「メンバーのモチベーションと利益のはざ間で」

エンジニアをマネジメントする立場の齋藤さんにとって、悩ましいのは「メンバーのモチベーションと利益を天秤にかけないといけないとき」だそうです。

例えば「普通の案件A」を受注して、「楽しそうな案件B」を提案中、時期がかぶってしまった…というようなとき。
社内で両方できるリソースがない場合、利益を優先せざるを得ないこともあります。
するとメンバーのモチベーションが下がり、「このままでは成長できない」とやめてしまう人が出てくる、悲しい結果になることも。

ここで、齋藤さんは本登壇のテーマである「組織の成長」について自身の考えを提唱します。
短期的には利益を優先することもあるけど、中長期で組織の成長を考えたとき、やはり「個人の成長」を大事にすべきとのことです。
「個人の成長は組織の成長に内包されています。もちろん会社のルールや束ねる立場の人は必要ですが、組織の力というのは個人+個人+個人…の積み重ねであることは間違いありません。」(齋藤さん)

「組織力=(個人+個人+個人…)×(何か)」という式で表せられるとするなら、個人が強くなれば、組織も何かしら強くなるはずです。

ある人①の力を円で表すとします。
そこに、ある人②の力をこれもまた円で表し、2つの円をつなげて一部だけを重ねます。
すると重なった部分の色が濃くなるのをイメージしてみてください。

これを繰り返し、たくさんの円をどんどん重ねて足していくと、もやもやとした形が浮かび上がってきます。
齋藤さんいわく、「これが組織の力と考えています」とのことです。

そして、組織の力には、真ん中が濃くて周りが薄いという「濃度」、円を合わせてだんだん広がっていった「面積」、ふたつの要素があります。
この「濃度」に具体的な例を当てはめると、下の図のようになります。

多くの人が持っている力、大勢の人ができることが濃度の濃い部分です。
例えば真ん中の一番濃い部分なら「HTMLはみんな書ける」、少し外側にいってやや薄くなる場所は「TypeScriptはできない人も多いけど、できる人も増えてきた」、もっと外側にいってさらに薄くなると、「Reactゴリゴリできる人は少ない」といったイメージです。

「濃度×面積が“組織の力”」

先ほど説明した「組織の力の要素」である濃度の高さや面積の広さは次のような影響を与えます。

濃度が高いと…多くの案件を受注できる、特定の人に依存しない状態になる
面積が広いと…対応案件のバリエーションが増える

「このように考えたとき、組織の成長とは、面積を広げる(または移動する)こと、濃度を高めることの2つの軸があります」と齋藤さんは語ります。
面積を広げて今までにないタイプの案件を獲得するか、濃度を高めてたくさんの案件をこなすか、で組織として受けられる案件の総量を増やすということです。

そして、面積を広げる、濃度を高めるために、それぞれ必要なことを齋藤さんは教えてくれました。

まず、面積を広げるためには、「新しい取り組みをする場」が必要とのことです。
これには、トップダウンで「需要のありそうなところ」へ舵を切るケースと、ボトムアップで「現場のWillやWant」からスタートするケースが考えられます。

ちなみに、ニジボックスで最近あった「トップダウンの新しい取り組み」は、Shopifyやノーコード・ローコード、Gatsby.jsなどが挙げられるとのこと。
同様に、ボトムアップでも「NuxtやFirebaseを使ってみたい」「サーバーの勉強したい」のように、現場主導で多くの新しい取り組みがなされているそうです。

ときには、トップダウンとボトムアップで面積を広げる方向性が真逆になり、「会社が求めること」と「メンバーのやりたいこと」に乖離が生まれることもあるかもしれません。
しかし、「広がる円の方向が絶対に間違いとはいえない」と齋藤さんは断言します。
VUCAと言われるように、何が正解になるか予想が立てにくい時代だからこそ、齋藤さんのこの言葉は非常に印象的でした。

そして、新しい取り組みを継続的にすることの重要性についても。
「新しい取り組みで知見を得て、そしてまた新しい取り組みをする。そんなループができれば、継続的な組織の成長につながるのではないでしょうか。」(齋藤さん)

次は、濃度を高めるための考え方です。
「まだ濃度が薄い領域」において、その領域ができる1人を軸として、もう1人、2人…とできる人を増やしていく地道な取り組みが必要、とのことでした。

「組織の成長を継続するために」

最後に、齋藤さんは組織の成長を継続させるために、次の2つを意識していると語ります。

  1. 新しい取り組みをする文化を大切にする
  2. 濃度を意識したアサインをする

新しい取り組みをする文化を大切にするために、メンバーが「やりたい」と言ってきたことに対して、齋藤さんは基本的に「やれやれ」と応援するそうです。

ただ、受託案件で急に新しいことをやるのは少しはばかられるため、上図のような「社内システムという試す場」がニジボックスにはあるとのこと。
あるメンバーが「Reactで何か作ってみたい」と言ったのを「やれやれ」と言ったら、いつの間にできていたそうです。
このように、マネジメント層が現場の「やってみたい」を応援すれば、思いもよらない新しい取り組みを生み、会社の文化を形作ることにつながるかもしれません。

また、濃度を意識した人のアサインについては、先ほども少し触れたように、「軸となる人」をアサインし、知見を増やして濃度を高めていくようにしているとのこと。

このように、組織の成長に向けた軸となる哲学を持つ齋藤さんですが、そのすべてがうまくいくわけではないそうで、彼自身も試行錯誤の日々を過ごしているそうです。
「メンバーに理解してもらうよう僕の気持ちを話すし、僕の考える円の広がりの方向性や、需要の予想を話しています。」と、地道なコミュニケーションやフォローも重要であることを示唆して、この登壇は締めくくられました。

先に登壇した古川さんの話にもありましたが、齋藤さんも「人を大事にするリーダーシップ論」で動いているように感じました。
特にマネージャーはメンバーと経営の板挟みに頭を悩ますことも多いですが、おふたりのように「人を大事にする」がぶれなければうまくいくことも多いし、組織の成長にもつながるのではないでしょうか。

組織の仕込み方/ユニファ株式会社 山口隆広

最後に登壇したのは、保育園や幼稚園向けのICTサービス「ルクミー」を運営するユニファ株式会社の山口さんです。
組織開発における具体例を交えながら、人の善意や意識に依存しない仕組み作りによる「組織の仕込み方」について語っていただきました。

「そもそも、組織が必要な理由とは?」

組織が大事、組織作りを考えなければならないといったように、「組織論」について語られることは多いですが、ではそもそもなぜ組織が必要なのでしょうか?
山口さんは、次のように定義します。

「事業、サービスの質を持続可能にするため」

例えばサービスを出しても1年で終わってしまったら、そのサービスを必要とし、選んでくれた人たちに対する責任を果たせないことになります。
このように考えるようになったのは、山口さん自身が40代になり、がむしゃらに全てを「自分でやる」ことが難しくなったこと、お子さんの送り迎えやごはん、お風呂などで物理的に働ける時間に制限がかかったことがきっかけになったそうです。

また、3~5年くらいで人がやめていくことの多いスタートアップにおいて、人が入れ替わるたびに組織における知見の量が減り、それをリカバリし続けるのは組織を削ると感じたことで、楽して成果を出してゆとりを作って新しいことがしたいという思いも。
「子どもも育てていきたいし、人生も豊かにしたいし、でも仕事もがっつりやりたい。いずれかしか選択できないわけではないと思うので、それを実現するために組織に投資してみようと、最近思うようになりました。」(山口さん)

「“チーム”と“ただ一緒にいる状況”との違い」

「人が3~5年でやめて、組織の知見量が減ってしまう問題」は、スタートアップに限らず実体験として感じられたことのある方も多いと思います。
では、なぜこのような問題が起きてしまうのでしょうか?
山口さんはそれを「みんなが違うことをやっていて、チームが成立していないから」と指摘します。
サービスごとにみんなそれぞれが1人で進めており、誰かが退職するときにはじめてその人がやっていた仕事を知る…ということが多々あるのです。

このように、同じ組織にいて進捗共有はするけど、各々が自分の仕事にいっぱいいっぱいでお互い助け合うわけではない状況は「ただ一緒にいるだけ」と言えます。
協力体制を組めている「チーム」とは似て非なるものなのです。

また、実は「引き継ぎが高度な業務であること」も、チーム化を妨げる原因となります。
特にPdMやエンジニアのように言語化が難しい領域の場合、退職までの1ヵ月の引き継ぎではその全てを引き継ぐことが困難です。
結果、「引き継ぎ上手な人」に引き継ぎが集中しがちで消耗してしまい、さらにそのこと自体は評価されにくいため報われない、そんなネガティブな事象が起きてしまいます。

本来、マーケティングや営業のように機能でくくられる「機能別組織」であれば、人の仕事を知る機会も多く、お互いが助け合いたいと思うはずです。
しかし、なかなかそうならないのは「組織がそういう仕組みになっていないから」と山口さんは語ります。

組織にどのような仕組みを作り、人がやめてしまっても組織としての知見量を減らさないために何をすればよいかを考えたとき、山口さんは「引き継ぎは、別に誰かが退職するタイミングにしなきゃいけないわけじゃない」と着想したそうです。

「普通に業務をしているだけで引き継ぎができている状況を作れば良いのです。例えば今まで1サービスあたり1人が担当していた体制から、2サービスあたりに2人の担当をつける『チーム』を作るのです。」(山口さん)
業務を1人で担当しているとドキュメントを作成するメリットがありませんが、チーム制にすればチーム全体で引き継ぎと同様の情報共有が「既にできている状況」が生まれます。
結果的に、人がやめても組織の知見量は増えていくのです。

「組織タイプは最も重視したい効果で選ぶべき」

ここまで「組織作りの基本的な考え方」について語ってくれた山口さんが次に言及したのは、「組織のタイプ」についてです。

まずは、一般的に組織タイプにはどのようなものがあるかを見ていきましょう。

  • 機能別:営業、開発などの機能で組織をくくる
  • 事業部別:HR、住宅などの事業で組織をくくる
  • マトリックス:機能と事業など複数の軸があり、社員1人に対して複数の指揮命令系統を設ける
  • KPI別:新規UU数アップ、客単価アップなど特定のKPIごとで組織をくくる

どのような組織タイプを選ぶかに決まった正解はなく、企業が今重要視したい課題に適したタイプを採用するのがベターとのこと。
例えば、特定の機能や技術情報を共有し機能力を上げたいなら機能別、事業部の中でも特定のKPIに注力して強化したいならKPI別、のように方針を決めていきます。

しかし、実際には上記のような組織タイプにきれいにはまることは少なく、「軸を決めてトッピングする」ことで調整していくと山口さんは語ります。
「最近私が選んでいる形は、『機能別を軸にKPI&ジャーニー別』です。現状、弊社の組織は基本的には機能別となっています。ただ、プロダクトが10以上あるので、同じ開発本部にいてもそれぞれ目指しているものが異なります。そこで、KPIやカスタマージャーニーが近いプロダクト同士をひとつの組織にまとめるようにしました。」(山口さん)

具体的には上図のようなステップで、山口さんが所属するユニファが重要視したい課題にアジャストするように組織を再構成してきたとのことです。

また、実際に組織を作っていく上で必要な要素として、山口さんは以下の4つを挙げてくれました。

  1. 信頼残高:特にチームを引っ張っていくマネージャーやMiddle マネージャーは信頼されているか、人を動かせるか
  2. 採用育成:組織にマッチした人材の定義と、それに伴う採用・育成プロセスの見直し
  3. 采配:個人やチームに適正なアサイン、マネージャー候補の検討
  4. 他部署説明責任:1部署にとっての理想(部分最適)ではなく、事業拡大に向けて相性の良い組織形態(全体最適)を説明

今すぐに組織を変えたいと思っていても、上記の要素がないと実現困難になるため、まずは組織作りの下準備としてこの4要素に一つひとつ取り掛かってみると良さそうです。

「1マネージャーあたりのメンバーの適正数は?」

次は、組織作りやそのための仕込みをするのは一体誰なのか?というお話でした。
山口さんは「それはマネージャーの仕事だ」と語ります。
チームが成果を出せるようにするのはマネージャーの仕事で、その手段のひとつが組織の仕込みだからです。

そして、マネージャーが組織作りなどチームの成果を目指した動きができるようになるには、メンバーの数を適正にする必要があるとのことです。
山口さんの考えるマネージャー1人あたりのメンバー適正数は5~7人程度。
この人数を超えてしまうと、メンバー個々の状況や課題を把握するのも難しくなるなど、マネジメントの精度が落ちてしまう懸念があるそうです。

また、チームでの成果は組織のスケールに大きな影響を与えるため、マネージャーを育てることも会社にとって重要です。
だからこそ、マネージャーが退職するときに急遽マネージャーを立てるのではなく、前任者がいる状態で新マネージャーをオンボーディングするなど、マネージャーの育て方にも気を遣うべき、と山口さんは語ります。

最後に、山口さんは「組織作りには時間がかかる」というメッセージで締めくくりました。
この登壇で解説してくれたように、引き継ぎのあり方の変革、組織タイプの方針検討とそのための仕込み、マネージャー育成など、成果が出始めるまでに1年単位で見ておくべきとのことでした。

このように中長期となる組織作りを持続可能なチャレンジとするには、何よりも組織作りに取り掛かる本人が持続可能でなければなりません。
今、「目の前の仕事でいっぱいいっぱい」という方は、ご自身が持続可能な状態でないかもしれません。
中長期視点で新しいことへのチャレンジをするためにも、まずは自分の仕事を少し剝がすことから取り組んでみてはいかがでしょうか?

登壇者によるQ&A

イベントの最後には、視聴者からの質問に登壇者が回答するQ&Aコーナーが設けられました。

「マネージャー兼プレイヤーは可能だと思いますか?」

A、不可能ではない。ただし、そのキャリアパス自体はすごく少ない
古川さん「マネージャーになった後プレイヤーに戻すことができない会社が多いと思いますが、その文化は良くないですね。ただ、マネージャーの希少価値が高いゆえに、柔軟な配置ができないという難しさはあると思います。」

「あまり面白くない案件にメンバーをアサインする際気をつけていることは?」

A、自分の考えや背景、方向性を説明する
齋藤さん「面白くない案件でも成長機会はあるはずだから、それを見つけて教えてあげることも重要です。」
山口さん「これができるのはあなただけだから、と説明したりします。ただし、それが1人に偏ってしまうと『損な役回りだな』と思われてしまうので注意が必要ですね。」

「カスタマージャーニー別組織についてもう少し詳しく教えてほしい。プロダクト別=カスタマージャーニー別なのでは?」

A、カスタマージャーニーにはプロダクトを横断するケースがある
山口さん「保育園を例に挙げると、『打刻や出席をとるなど、やるべきことの1日の流れ』と『園児の育ちについて語り合うといったプラスアルファ(やりたいこと)の1日の流れ』があります。この2つの流れは、1プロダクトでは完結できないものです。ですから、それぞれの流れと対応するカスタマージャーニー別での組織構成が必要な場合があります。」

「複数プロジェクトを兼任させることでハレーションが起こることは?」

A、複数担当するのは連携の深いサービスにすることで起きにくくなる
古川さん「経験の浅いメンバー育成段階であれば、複数担当させた方が有効なことも多く、ハレーションが起こることも少ないです。アサインの仕方を工夫することが重要です。」

「適切なマネージャーの人材をどうすれば増やせる?」

A、マネージャーはやらないと分からないので、なるべく失敗できる状態をつくる
古川さん「必要とされるマネジメント能力は会社によって千差万別なので、自社で育てていくしかないと思います。」

「マネジメントに1on1はMUSTということですが、負担が大きくなったときどう折り合いをつけていますか?」

A、実現可能な範囲で設定する
口さん「本なんかを読むと毎週やるべき、と書いてあることが多いです。でも、メンバーの人数によっては限界もあるので、隔週実施で了解をもらうなどしながら調整しています。」

「自分より技術力がないように見えるリーダーについていきたくないというメンバーにはどう接すればよいでしょうか?」

A、技術力の捉え方について説明する
古川さん「技術力は1次元的に語れるものではありません。ひとつの側面だけで『リーダーよりも技術力がある』のはむしろ普通だけど、それだけで『ついていきたくない』と思うのは考えが浅すぎます。」

「新しいメンバーが定着しやすいようにオンボーディングの体制に工夫されている点は?」

A、複数人でオンボーディングする、新しいメンバーの意見を取り入れる
山口さん「特に今のようなリモート下では、毎日夕会を開くなど意見交換の場を設けると効果的です。」

【お知らせ】BUSINESS & CREATEVE online 次回5/31開催!


開催テーマは『デザインシステムがなぜ必要なのか? 〜共通言語のコミュニケーションで円滑なプロジェクト推進を〜』です。
ものづくりに携わる以上、良いプロダクトを目指したいものです。
ですが、プロダクト開発の現場では、クライアントやチームなど、 多様なステークホルダーが存在し「良い」の観点も1つではありません。
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今回は、クライアントワーク、大規模なレガシーシステム、新規事業の現場で日々プロジェクトに取り組む3人をお招きし、共通言語としてのデザインシステムの必要性や、クライアントリレーションやチームの課題をどう乗り越えてきたかなど、現場の試行錯誤によって培ったリアルな知見をご共有いただきます。
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