デザインスプリントの実践方法とは?ワークショップ形式で学ぶ、ニジボックス式価値創造型スプリント②
この記事では、ニジボックスのユーザーリサーチとビジネスモデル構築のノウハウを活かした、「ニーズの確度が高く」「実現性の高いサービス価値を創造できる」ニジボックスオリジナル版のデザインスプリントを、3回シリーズでご紹介しています。
今回は第2回目、ワークを実践しながらアイデアに磨きをかけていきましょう!
目次
【Step2】問題定義
1.目的
新しい”問い”の切り口を設定する
経験から価値を抽出できたら、アイデアを発散させるために必要な「問い」を設定しましょう。
「問い」はアイデア発散の土台となるのもので、この着眼点がよいほど価値のあるアイデアを生み出す可能性が高いです。
価値のあるアイデアとは、人々のインサイトを捉えており、新規性や拡張性のあるものを想定しています。
2.事前準備
ワーク開始前に、次のものをご準備ください。
- 【Step1】で作成した価値マップ、その他備品
- 問いシート(A4の白紙でも可)
ご参考までに、弊社の問いシートはこのようなフォーマットを作成・使用しています。
案件によって、項目や文章などをアレンジしてみてください。
フォーマットの各項目に関する詳細は、「3.ワーク内容」をご参照ください。
3.ワーク内容
問いデザイン
問いデザインでは、【Step1】で作成した価値マップをもとに、問いシートを完成させることがゴールです。
問いシートには、「【誰】にとってどんな【問題を解消できる機会(チャンス)】があり、【利点】があるか」という内容を落とし込みます。
このワークでは、人々の何気ない行動や思考をよく観察し、機会を見抜く洞察力が必要とされます。
価値マップに記載されているひとつひとつの経験をよく観察しながら、その出来事の背景を想像してワークを進めてみましょう。
①具体的なテーマにおきかえる
【Step1】価値マップデザイン⓪で設定した抽象的なテーマを、具体的なテーマに戻しあてはめ、機会を探索してみましょう。
例えば、抽象的なテーマを「スポーツ」と設定していた場合、具体的なテーマである「マラソン」の現状を考えてみましょう。
「スポーツ」の経験として「団体競技では、チームでの目標達成感を感じる機会が多い」とあったとします。
一方で、「マラソン」の経験として、「人と一緒に目標を達成する機会がない」ことが現状としてあげられます。
その場合、青色のポストイットに「人と一緒に目標を達成する機会がない」ことを書き、オレンジ色のポストイットの隣に貼ります。
そうすると、「人と一緒に目標達成したい」という理想がスポーツ共通であったとすると、マラソンではニーズを満たせていない可能性があるとわかります。
ポイントは、ご自身の感性で予想もつかなかった意外な結果から見ていくことです。
現状を比較して見て、既存のサービスやプロダクトがある場合、またはどうしても実現不可能な理想である場合、その経験や理想に対する①はスキップしましょう。
②仮説と組み合わせる
【Step1】の仮説デザインで作成した常識+仮説のセットを見渡してみてみましょう。
仮説の中で、上記①で作成した具体的なテーマの現状を立証できそうな仮説を探し、組み合わせます。
例えば、仮説として「マラソンは自分との戦い」という常識から、「みんなと一緒に戦うとしたら?」という仮説が出ていたとしましょう。
この仮説は、上記①の現状によって立証でき、実際に機会があると考えることができます。
③「問い」をたてる
①②の内容を問いシートに整理してみましょう。
マラソンで例えるならば、下記のように記載することができます。
各項目を記入する際、下記の点を意識してみましょう。
- 【誰】=②の現状で困っている人、または【利点】を享受できる人
- 【チャンス】=②の現状と理想や経験とのギャップと、ギャップを解消できる機会
- 【利点】=【チャンス】を実現でき、【誰】にもたらす利点
【Step3】アイデア創造
1.目的
コンセプトをつくる
「問い」の切り口を設定できたら、アイデアを発散させコンセプトを完成させましょう。
ここでは実現可能性は考慮せずに、利点を訴求できるアイデアを自由に考えます。
2.事前準備
- 【Step2】で作成した問いシート、その他備品
- コンセプトシート(A4の白紙でも可)
ご参考までに、弊社の問いシートはこのようなフォーマットを作成・使用しています。
案件によって、項目や文章などをアレンジしてみてください。
フォーマットの各項目に関する詳細は、「3.ワーク内容」をご参照ください。
3.ワーク内容
アイデアデザイン
アイデアデザインでは、問いシートで書いた利点をさらに分解し、具体的なケースを想像しながらアイデアを発散します。
そして個人ワークとグループワークを繰り返しながら、アイデアに磨きをかけコンセプトシートを完成させます。
コンセプトシートは問いシートと似た構成ですが、商品名や実現方法をより具体的に思考することで、早期にアイデアの実現可能性を高くすることを目的としています。
一方で、技術的な判断が難しい場合もあります。その場合は有識者への質問や、随時デスクリサーチを合わせて行いましょう。
①分解する
個人ワークで、問いシートに記載した【利点】をみながら、「【利点】がもたらされるとき」を3〜5つほどあげてみましょう。
シーン1つにつき、青色のポストイット一枚を使いましょう。
例えば、【利点】に「チームで共有目標を達成できる方法」と書いたとします。
ご自身のご経験を思い返したり、経験者の意見を参考にしたりしながら、具体的なシーンをあげてみましょう。
この例の場合、次のようなシーンが想定されます。
- 練習メニューをみんなでこなせたとき
- 1ヶ月間の走った距離が目標達成できたとき
- チームで食事制限ができたとき
②アイデアを出す
個人ワークで、①で考えたそれぞれの「【利点】がもたらされるとき」において、【利点】を提供できる方法を考えてみましょう。
黄色のポストイット一枚につき1つのアイデアを書き、対象とする①の青色のポストイットの近くに貼りましょう。
例えば、アプリ開発を予定しているならば、「練習メニューをみんなでこなせたとき」に対して次のような実現方法が考えられます。
- アスリートのメニューがみられるアプリ
- 目標に対しクラウドファンディングできるアプリ
- チーム別にタイムトライアルができるアプリ
ポイントとしては、【チャンス】をふまえた利点の実現方法を思いつく限り考えてみることです。
なかなかアイデアがでないときは、他業界の製品やサービスがどのような【利点】をもち、【チャンス】を活かすことができているのかを、調べてみましょう。
③混ぜ合わせる
グループワークで、②にて考えたアイデアを共有しましょう。
その後、個人ワークでアイデアを3つに絞り、他のアイデアを取り入れたり、変えたりしながら、アイデアに磨きをかけましょう。
アイデアの数に関しては、弊社のスプリントでは最終的に1人3つまで出しましたが、適宜ご状況に応じてご調整ください。
ポイントとしては、既存のサービスや商品と大きな違いのあるもの、顧客や会社にとって大きな利点をもたらすものを重視して、アイデアを選びましょう。
また、複数のアイデアの利点を組み合わせることも有効的です。
④コンセプト化する
個人ワークでコンセプトシートを利用して、③で磨き上げた至極のアイデアたちを具体化しましょう。
各項目を記入する際、下記の点を意識してみましょう。
- 【方法】=【利点】の具体的な実現方法
- 【誰】=問いシートに書いたターゲット、またはより詳細なターゲット
- 【利点】=アイデアがもたらすターゲットにとってのメリット
- 【ラベル】=端的に商品の特徴を表すことのできる名前
Twitterを例とすると、次のように記載することができます。
コンセプトを考える上で最も重要なポイントは、「Key Experience」の設計です。
日本語では「キーとなる体験」と表現できます。
これは、「競争優位性を保ち、イノベーションを決定づけるために必要な、最小限の機能やデザインを通して得られるユーザー体験」を意味します。
なぜ最も重要かというと、キーとなる体験の見極めができないまま実現方法を検討した場合、結果的に誰にも利点のない商品をつくってしまう可能性が高いからです。
よくある例としては、やりたいことを盛り込みすぎた結果、ニーズを検証しないまま「重要な機能一覧」のようなコンセプトができてしまい、開発工数が膨らみリリースができない、またはリリースしても使われないアプリとなってしまった、というケースです。
このような最悪のケースを避けるためにも、コンセプト設計時に「Key Experience」を吟味しましょう。
ご自身で技術的な方法を検討することが難しい場合は、開発者などと相談しながらワークをすすめてみてください。
⑤評価する
④で作成した全員分のコンセプトシートを集め、実際に採用するコンセプトを決めましょう。
評価方法は、プロジェクトにおいて最も重要な観点を2つ選び、その観点を2軸としてコンセプトをマッピングする方法をとっています。
弊社のスプリントにおいては、ペイオフマトリクスを用いており、「効果」と「実現性」の高いコンセプトを選別しました。
プロジェクトによっては、実現可能性に囚われず斬新なサービスを作る、という方針もあるかと思います。
「何を評価軸と置くか」という点は、あらかじめメンバー内で議論し、決裁権のあるメンバーに承認を得ておくことをお勧めします。
コンセプトをマッピングした結果、最終的には「効果」が高く「実現性」が高い、とされたコンセプトの中から上位3つを採用しました。
ある程度は論理的に評価した上で、最終的にはメンバーの主観で選ぶという考え方です。
上位3つは、投票方式で1人3つまで主観的にいいと思ったものにドットシールを貼り、シールの数が多いもの上位3つを選びました。
様々な選び方がありますので、プロジェクトに合った評価方法を検討してみてください。
今回のまとめ
ニジボックスオリジナル版デザインスプリント講座第2回目は以上です。
前回に引き続き、「デザイン思考の5ステップ」に沿って行うワークのステップ2「問題定義」と、ステップ3の「アイデア創造」を実践いただきました。
次回は、いよいよ最終回です。ステップ4の「プロトタイプ」とステップ5の「テスト」のワークを実践します!
また、下記資料でも、新規事業の立ち上げからリリースまでを具体的にどのように進めるべきなのかについて、よくあるご質問を交えながら解説しています。
ぜひUXリサーチを用いた事業推進への理解を深めることにお役立てください。
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
note:junmaru228