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【基本編】MVP(Minimum Viable Product)とは?開発手法やプロトタイプの種類を、事例を交えて解説

更新日 2022.12.19
【基本編】MVP(Minimum Viable Product)とは?開発手法やプロトタイプの種類を、事例を交えて解説

MVP(Minimum Viable Product)とは、実用に足る最小限の機能のみを備えたプロダクトです。
新規ビジネスや新しいプロダクトの開発において活用されることが多く、もともとは米国のスタートアップが成功の可能性を高めるために考案されました。

本企画は【基本編】【実践編】の2回に分け、当記事【基本編】ではMVPの定義やメリット、手法について解説します。

MVP(MinimumViableProduct)とは?

MVPとは「Minimum Viable Product」の頭文字を取った略語で、日本語では「実用最小限の製品」を意味します

MVPはもともと、米国の起業家スティーブ・プランクとエリック・リースによって提唱されたものです。
スタートアップビジネスを効率よく成功に導くための指南書であるエリック・リースの著書『リーンスタートアップ』の中で、重要な概念として紹介されました。

リーンスタートアップとは、新しいビジネスのアイデアを必要最小限のプロダクトとして具現化し、実際に市場で検証、改良していくことで、リスクを抑えながらビジネスの成長を目指すモデルです。

そして、リーンスタートアップのプロセスを進める中で、市場の反応を試すための「お試し」に用意するものがMVPです。

MVPはスタートアップに限らず、新規事業創出や新サービスの開発において活用されるケースも増えています。

MVPを用いて開発することの3つのメリット

MVPを用いることのメリットは、主に以下の3つです。

1. コストを抑えられる

MVPはユーザーに提供したい必要最小限の機能のみを備えたものなので、最初から完成品を目指す開発よりも低コストで用意することが可能です。
開発初期における仮説が市場に受け入れられないものであっても、MVPであればそれまでに要したコストも比較的少なく済みます。

ここで注意したいのが、「コストが抑えられる=単に安いコストで済む」と捉えるのは誤解ということです。

完成品と比べると個々のMVPは低コストで開発できるので、無駄なコストが発生しにくくなると理解しておきましょう。

2.短期間で仮説検証できる

必要最小限の機能しか備えなくて良い分、開発にかかるリードタイムが短くなるので、MVPは仮説の検証をスピーディに進めることが可能です。
もし仮説が正しくなかったとしても、次の検証に素早く取り掛かることができます。

1点目のコストのメリットと同様に、「とにかく早い」ではなく「スピーディに検証しつつ、着実に進められる」ことがこのメリットの本質です

3.新たな市場にいち早く参入することの利益を得られる

MVPは低コスト・短期間での検証ができることで、他社に先駆けて新たな市場に参入できる可能性が生まれます
そして、もし市場における先行者となれば、利益を独占して優位な立場を確立できるチャンスもあります。

新規事業やスタートアップのように「新しいものを生み出すこと」には、リスクがつきものです。
コストがかかるのに、既存事業と比べて失敗してしまう可能性が高いためです。

しかし、MVPのメリットを見ると、「新しいものを生み出すこと」のリスクを最小限に抑えられることが分かると思います。
用意できるリソースが少なくても着手でき、無駄なく進めることができるため、MVPは新しい事業の起ち上げや、プロダクト開発に向いているといえるでしょう。

ニジボックスで用いている6つのMVP手法

MVPとは_6つのMVP手法

ここからは、MVP手法の種類について見ていきましょう。

世の中一般的にも、MVPはモックやプロトタイプなどさまざまな手法に分けられ、またその定義も会社によって異なることが多いです。

ニジボックスではMVPを6種類に分類して、社内呼称を定義し、状況に応じて使い分けています。
必要なコストが少ないものから順番に、それぞれ解説します。

1. Paper

1つ目のMVP手法である「Paper」は、「紙」というよりは実体が全くないものを指します

例えばサービス紹介のLPサイトや動画だけを作って「こんなサービスがあったら使いたいですか?」ということを確認するMVP手法を「Paper」と呼称しています。

Paperで確認した反応を、実体のあるものを作っていくか否かの判断基準とします

2. Concierge

「Concierge」は通常はシステムを用いて自動化する部分を、人力・手動で代替したMVP手法です。
一般的に「オズの魔法使い」と呼ばれるMVP手法と同義です。

例えば、決済処理をCSVで手動管理するやり方が挙げられます。
また、チャットサービスなどで、裏では学生のアルバイトが手入力をしている、といった事例もあります。

3. Combination

3つ目の「Combination」は、既に世に存在するサービスの組み合わせで新サービスを実現するMVP手法です。

例えばスケジュール管理サービスと地図サービスを組み合わせることで、タスクと行き先をひとまとめにしたアプリを作ることができるでしょう。

この手法で開発した場合、非常に使い勝手が悪いUIになることが多いです。
しかし、メインで実現したいことが叶えられれば一定の評価が得られるはず、という考え方の元、多少の使いづらさには目をつぶります。

昨今、既存サービスの組み合わせをサポートするツールも出ていますので、より少ない工数でこの手法を用いることができるようになっています。

4. Only Visual

次の「Only Visual」は見た目のみを作るMVP手法で、一般的にはモックアップと呼ばれるものです。
昨今はAdobe XDを使って作ることが多いです。

Only Visualを使う目的は、デザイントンマナを確認するだけの場合もあれば、画面に配置する項目のIA(※)設計まで確認する場合もあります。

(※)Information Architecture=情報アーキテクチャ。ユーザーが情報を探しやすいように、分かりやすく整理して伝えるための手法・技術のこと。


■参考記事:IAについては以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はぜひご覧ください!
【基礎から分かる】IA(情報アーキテクチャ)とは?基本からサイト設計時の利用法までやさしく解説

5. Prototype

5つ目のMVP手法である「Prototype」は、実際に動く「モノ」を開発することを指します
必要な機能も装着するので、より本物のプロダクトに近い体験をもってユーザーの検証ができます。

後述しますが、このPrototypeとOnly Visualは幅広い目的で活用されるため、さらに細かく分解されます。

6. Final

6つ目のMVP手法の「Final」は、世にリリースするクオリティまで作り込むことを指します
想定とするターゲットが通常利用できる状態のプロダクトを用意します。

ただし、会員ユーザーのみを対象とするなど、限定公開とするケースもあります。

6(+1)のプロトタイプ分解

MVPとは_プロトタイプ分解

先程解説したMVPの6手法のうち、「Only Visual」と「Prototype」がいわゆる「プロトタイプ」と呼ばれる範囲です。
この範囲は幅広いので、ニジボックスではさらに6(+1)つに分解しています。


■参考記事:プロトタイプについては以下の記事でも解説しています。ぜひ以下の記事もご覧ください!
サービス開発の仮説検証に有効なプロトタイプとは?活用法やメリット、種類を解説

1.ペーパープロトタイプ

「ペーパープロトタイプ」とは、手書きで作るワイヤーフレームのことです。
紙ではなくホワイトボードに大まかな画面イメージを描くだけで済ませる場合もあります。

手描きのメリットはスピードが速いことですが、コピー&ペーストなどが容易なAdobe XDの作業スピードが手描きを超えるようになり、昨今はペーパープロトタイプを用いるケースが少なくなりました。


■参考記事:ワイヤーフレームについて以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はぜひご覧ください!
【初心者でも分かる】制作に欠かせないワイヤーフレームとは?意味や役割、作り方まで解説

2.UIデザインプロトタイプ

2つ目の「UIデザインプロトタイプ」とは、UIデザインを具現化したプロトタイプです。

Adobe XDを活用して作成することが多く、ターゲットユーザーにトンマナが受け入れられるかなど、デザイン中心に検証したい場合にUIデザインプロトタイプを作成します

UIデザインはワイヤーフレームを元に作るのが一般的ですが、特に経験の少ないデザイナーは「ワイヤーフレームを清書しただけのようなデザイン」にしてしまいがちです。

UIデザインプロトタイプによる検証、改良を経ることで「ワイヤーフレームを清書しただけのようなデザイン」になってしまう状況を避け、よりユーザーニーズに合うデザインに近づけられるようになります。

3.UIアニメプロトタイプ

次の「UIアニメプロトタイプ」は、ユーザー操作によってアニメーションが発生し、そのインタラクティブ性を検証する際に作るプロトタイプです。

Adobe XDで作成できなくはないですが、基本的にはプログラムでの本開発に近い形でアニメーションを作ります。

4.静的MODELプロトタイプ

「静的MODELプロトタイプ」は、「バックエンド通信をゼロにして、フロントエンドだけで何ができるか」を見るためのプロトタイプです。

昨今は、Adobe XD を使ったUIデザインプロトでできることが増えてきたため、活用する頻度は減りました。
例えば、単純な画面遷移の確認のみで良い場合などは、Adobe XDで賄えるケースがほとんどです。

5.技術検証プロトタイプ

5つ目の「技術検証プロトタイプ」は、「技術的に実現可能なのかどうか?」を検証するために作るプロトタイプです。

例えばタブレットでもアニメーションが軽快に動くかなど、実現したいことに対して技術的な不安要素がある場合に活用します。

6.データフロープロトタイプ

「データフロープロトタイプ」は、バックエンドを通じてデータを持たせないと確認するのが難しい場合に作るプロトタイプで、BtoB系の業務システムなどで多い傾向があります。

例えば承認システムは、申請時・承認時などユーザーが操作をしたデータの状態によって表示内容が変わります。
このようなケースでは、バックエンドを実装した上でステータスを変化させながらの確認が必要になります。

フロントエンドのみの検証に使う静的MODELプロトタイプの真逆、と捉えると分かりやすいでしょう。

+1:ノーコードプロトタイプ

ここまで紹介してきた6種類のプロトタイプに加えて、新しいプロトタイプの形として注目しているのが「ノーコードプロトタイプ」です。

その名の通り、コードを使わずにAppSheetやMicrosoft Power Appsなどを用いて作るプロトタイプで、専門的な知識が無くても実現できるため今後活用の機会も増えてくるでしょう。


ノーコードについては下記の記事で解説しているので、こちらの記事もぜひご覧ください。
■参考記事:
ノーコードとは?ローコードとの違いやメリットデメリットを解説。おすすめツールも紹介!

MVP分解の留意点

MVP手法を細かく分解して、それぞれのケースに応じて活用する上での留意点が3つあります。

  1. 全てはやらない・やれない
  2. 今回紹介したものを全て実施するのではなく、案件特性やアサインメンバーのスキルセットに応じて取捨選択します。

  3. 完全合致はしない
  4. 「こんな案件だから、この手法だけを使う」のように、要件に対して過不足なく合致する分解の仕方はしていません。
    あくまで機能分類としてチーム内で共通認識を持てるように分解・定義しているのがポイントです。

    「とりあえず動くα版」のような表現での認識齟齬を防ぎ、「今回はUIアニメプロトと静的MODELプロトを組み合わせて作ろう」といった会話ができるようにしています。

  5. セルフチェックリスト
  6. 「Combinationを採用して進めているけど、実はその検証はPaperで十分なのでは?」のように、よりMinimumにできないかを自己診断するのにも活用しています。

MVPを取り入れる上で重要視すべき2つの心得

基本編の最後に「MVPを取り入れる際の心得」を2つ用意しました。
MVPの開発を進める中で、常に頭に入れておきたい重要なことなので、しっかりと理解しておきましょう。

【心得その1】「検証する相手は誰なのか?」を意識すること

MVPとアーリーアダプター

MVPは、プロダクトが市場で受け入れられるかを検証するために作るものです。
そこで、「検証する相手は誰なのか?」を意識することが、MVPを取り入れる際には非常に重要です。

多くの場合、MVPは「アーリーアダプター」と呼ばれる、流行に敏感で他者への影響力も持つ層に向けて提供します
アーリーアダプターによる検証で良い反応が得られれば、いわゆる一般の人にも受け入れられる可能性が高いと判断できるためです。

MVPは必要最小限の機能のみを備えたものなので、一般の人に提供してもおそらく理解してもらえません。


例えば、以下の文を読んでみてください。
「全国一般風ノ向キハ定リナシ天気ハ変リ易シ但シ雨天勝チ」

これは、日本で初めての「天気予報」だそうです。
なんのことなのか完璧に理解できた、という方は少ないのではないでしょうか?

この一文を「今日の天気を予想し教えてくれる」という天気予報の提供価値を、最小限の機能で作ったMVPと捉えてみましょう。
多くの人にとっては理解できないものの、今日の天気が分かることに必要性を感じていた一部の人にとっては「これは大変に価値のあるものだ」と受け入れられたことと思います。

結果的に、天気予報はここから一般の人にとっても理解しやすい機能がどんどん追加され、現在ではアプリなどでリアルタイムに情報が分かるサービスへと発展しました。

最初から今の天気予報アプリのようなサービスを作ろうと考えると、コストも時間も膨大なものになってしまいます。

MVPは一般の人ではなくアーリーアダプターに向けて考え、まずは検証するために必要最小限の機能で作ることを意識するようにしましょう


■参考記事:アーリーアダプターについて、詳しく知りたい方は以下の記事をぜひご覧ください!
【成功する新規事業の秘訣とは?】アーリーアダプターを活用したアプローチ方法

【心得その2】「Minimumなのか」を強く意識する

MVPとは_部分検証

一般的なMVP開発は、MVPを作る→市場にリリース→エンハンス(性能向上・機能追加)という流れです。
ニジボックスでは、これよりもさらに流れを細分化し、部分開発→部分検証を何度か繰り返したのちにリリースしてエンハンスという流れでMVP開発を実施しています

検証が必要なことがA・B・Cと3つあったとして、これら全てを検証できるMVPを作るのではなく、「Aの検証のためのMVP」「Bの検証のためのMVP」「Cの検証のためのMVP」をそれぞれ作るのです。

一見、3つ全て検証できるものを作った方が効率的に見えますが、いざ検証に入ると「そういえばDも検証しないと、Eも必要なのでは?」のように検証項目が増えていくケースが多々あります。
このような「検証デスマーチ」を防ぐために、とにかく検証項目を細分化してMinimumな開発を心がけることがMVP開発では重要です。


例えば、ECサイトを作ることになったとしましょう。
ここで「売りたい商品に惹きがあるか」「使いやすいUIか」「フォームが正しく動作するか」など複数の検証が一度にできるMVP開発をしようとするのではなく、まずはそれぞれの検証に十分なMVPを用意するのです。

「売りたい商品に惹きがあるか」を見るだけなら、Googleフォームで注文を受付して、ユーザーとのやり取りや決済は手動で行うだけでも十分です。

実際の現場では、「これくらい作り込まないと意味がない」といった感覚的な判断をしがちですが、それに捉われず「とにかくMinimumに」を心がけて、コストや開発期間もMinimumにすることがMVP開発では重要です。

基本編のまとめ

基本編では、MVPの定義や手法など、おさえておきたい基礎知識を中心に解説してきました。
次の記事「実践編」では、以下の内容でより具体的な情報をお届けします。

  • MVPを実践するために必要な条件
  • ニジボックスのMVP活用事例
  • 多くの人が持つMVPに対する間違った認識
  • MVP開発において最重要なのは一体感

ぜひ、実践編も読んでみなさんの実務に役立ててください!
【実践編】MVP(Minimum Viable Product)とは?開発手法やプロトタイプの種類を、事例を交えて解説



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監修者
監修者_丸山潤
丸山 潤
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動

コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。

Twitter:@junmaruuuuu
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