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サービスデザインとUXデザインの違いとは?サービスデザインの活用方法や効果、事例を紹介

サービスデザインとUXデザインの違いとは?サービスデザインの活用方法や効果、事例を紹介

顧客が商品やサービスに期待する水準は、日々高まりつつあります。多くの顧客はサービスの機能面だけでなく、アフターサービスや付加価値など、顧客体験も重視する方向に変わってきているのです。しかし、解決する上で有効な手法となるサービスデザインについては、一部の大企業やスタートアップ企業を除けば、ほとんどの企業において導入が進んでいない状況です。

そこでこの記事では、顧客体験に関する方法論としてサービスデザインの概要や、サービスデザインとUX・CXデザインとの違いについて解説します。また、サービスデザインを実践するための基本的なプロセスや成功事例も紹介します。

サービスデザインとは

サービスデザインとは、顧客の体験価値を重視し、継続できるビジネスを実現するための組織や仕組みをデザインすることで、新たな価値を生み出す方法論の一つです。
新規サービスの創出から既存サービスの改善まで、幅広く適用できます。

モノや情報が市場にあふれている現代は、例えば「店頭で商品を購入する」など、特定の接点においてのみ品質を高めるだけでは顧客に選ばれつづけることは難しい状況にあります。

購入前に触れる広告や、店舗スタッフによる接客、アフターサービスなど、一連の体験が重要です。

サービスデザインは、こうした一連の顧客体験はもとより、商品やサービスを提供する側の視点にも立ち、オペレーションや仕組みも含めて包括的にデザインすることを指します。

経済産業省が公表した資料(※)では、サービスデザインについて「顧客体験のみならず、顧客体験を継続的に実現するための組織と仕組みをデザインすることで新たな価値を創出する方法論である」としています。

出典:我が国におけるサービスデザインの効果的な導入及び実践の在り方に関する調査研究報告書[詳細版] | 経済産業省

サービスデザイン6つの原則

サービスデザインの実践書『THIS IS SERVICE DESIGN DOING』(2018年)では、サービスデザインで求められる考え方を「サービスデザイン思考の6原則」として挙げています。

これは、前刊『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING』(2010年)で示された「サービスデザイン思考の5原則」の内容に「反復的であること」を追加したものです。

■参考書籍:
ビー・エヌ・エヌ新社、マーク・スティックドーン、アダム・ローレンス、マーカス・ホーメス、ヤコブ・シュナイダー 著、安藤貴子、白川部君江 翻訳、長谷川敦士 監修 (2020) 『This is Service Design Doing サービスデザインの実践』

ビー・エヌ・エヌ新社、マーク・スティックドーン、ヤコブ・シュナイダー 著、郷司陽子 翻訳、長谷川敦士、 武山政直、 渡邉康太郎 監修 (2013) 『THIS IS SERVICE DESIGN THINKING. Basics – Tools – Casesー領域横断的アプローチによるビジネスモデルの設計』・サービスデザイン思考の6原則

  1. 人間中心
    サービスに関わるあらゆる人の経験や体験を考慮する。
  2. 共働的であること
    サービスデザインのプロセスに、さまざまな価値観や役割を持ったステークホルダー(利害関係者)を参加させること。
  3. 反復的であること
    実装に向け、探索、改善、実験のアプローチを反復的に行うこと。
  4. 連続的であること
    サービスは、それぞれ相互に関連する行動の連続として可視化し、統合すること。
  5. リアルであること
    顧客のニーズを調査し、現実に根差した試作品を作ること。無形の価値は物理的またはデジタル的実体を持つものとして存在を明確に表す必要がある。
  6. ホリスティック(全体的)な視点
    全てのステークホルダーのニーズに対し、持続的に対応するサービスであること。

サービスデザインの重要性

昨今のビジネスにおけるサービスデザインの重要性は、以下の3つの背景によると考えられます。

  • 経済面
    経済や産業が成熟した現代では、モノそのものだけで差別化を図ることが難しくなっている。人はモノを所有するだけにとどまらず、モノの機能性や効率性など付加価値を重視する傾向にある。
  • 社会面
    社会や市場にモノや情報があふれたことで、単純に消費者がサービスや商品に期待する水準が高まっている。
  • 技術面
    デジタル技術の発展により、従来の市場力学が通用しにくくなっている。例えば、異なる分野同士が結び付き、新しいサービスが創出される、効率化されるといった事例は多くある。

このような状況下では、モノや情報など一部にのみフォーカスするのではなく、俯瞰的な視点でステークホルダー全体を見渡し、総合的にビジネスをデザインするサービスデザインが重要となっているのです。

サービスデザインとUX CXデザインの違い

顧客体験に関連する取り組みは、サービスデザイン以外にもUXデザインやCXデザインがあります。ここでは、サービスデザインとUXデザイン、CXデザインとの違いを解説します。

UXデザインとの違い

UXデザインの“UX”は、「User Experience(ユーザーエクスペリエンス)」の略称で、ユーザー体験を意味します。

UXデザインは、ユーザーの購入体験などをデザインすることです。ECサイトの例を挙げると、「商品が探しやすかった」「写真が綺麗で選ぶのが楽しかった」など、利用体験を高めるデザインをすることが挙げられます。

UXデザインとサービスデザインの大きな違いは、マーケティングの対象です。

UXデザインは、サービスを利用時のユーザーの体験そのものに焦点を当てたものですが、サービスデザインはユーザーの体験に加え、サービスを提供する側の体制や仕組みにも焦点を当て、より網羅的な視点で行うマーケティング手法です。

UXデザインに関して詳しく知りたい人は、下記の記事もぜひ参考にしてください。

■関連記事:
UXデザインとは?UIとの違いや考え方、必要なスキル・知識などを解説

CXデザインとの違い

CXデザインの“CX”は、「Customer Experience(カスタマーエクスペリエンス)」の略となり、顧客体験を意味します。
CXデザインとは、購入前の商品やサービスの認知をする段階から購入して使用した後までの一連の顧客体験をデザインすることです。

また、これには顧客満足度を改善するためのプロセスや施策も含まれます。例えば、商品購入後のアフターサービスなどもCXデザインの領域です。

CXデザインとサービスデザインの違いは、フォーカスする範囲にあります。

CXデザインとは、サービスや商品を購入してから使い終え、さらにそこからカスタマーサポートなどによるアフターフォローまでを含めた、幅広い体験をデザインすることです。

UXデザインより広い領域のデザインを指しますが、サービスデザインはサービス提供側まで考えるという意味で範囲が広がります。

顧客体験だけにとどまらず、サービスを提供する現場スタッフや提供までの仕組みまでを含めてデザインするものです。

フォーカスする領域としては、「サービスデザイン>CXデザイン>UXデザイン」の順に広いと考えると分かりやすいでしょう。

サービスデザインを活用することで得られるもの

サービスデザインを組み立てることで、ビジネスに対して新規事業の創造と既存事業の改善の2軸の効果が期待できます。

また、サービスデザインは、ステークホルダー全体を考慮したデザインを行う以上、複数の部署・企業が連携する必要があります。よって、これまで発生しなかったコミュニケーションが生まれやすくなります。

そのほかにも、向上させるポイントが明確になり、具体的な方針が社内で共有されることで、生産性が向上する効果や、仮説と実践の繰り返しが求められることで、不明瞭な状況でもプロジェクトを進める力が身に付く効果が期待できます。

サービスデザインを実践するプロセス例4つ

サービスデザインに関して「必ずこれをしなければならない」という手法は存在しませんが、一般的に以下の4つの活動を基本的なプロセスとして実施するとよいとされています。

1.リサーチ

まずはリサーチです。仮説の発見や検証を目的として、特定のユーザーに対して情報収集を行います。そして、収集したデータをさまざまな面から分析し、顧客の価値観や潜在的ニーズを理解します。

リサーチでは顧客の潜在ニーズを理解することが重要です。そのためには顧客調査やカスタマージャーニーマップの作成などを行い、顧客の価値観や行動を分析しましょう。

2.アイディエーション

問題解決や新たな価値を生み出すためにさまざまな意見を出し合い、ブラッシュアップしていきます。さまざまな意見を出し合うことで、よりよいアイデアを模索します。

3.プロトタイピング

実際にサービスとして展開する前に、ブラッシュアップしたアイデアを試作品として作成し検証(ユーザーテストやユーザビリティテスト)します。それに対して不足点や課題があれば、改めてリサーチからプロトタイピングまでのプロセスを繰り返します。

このプロセスで、サービスの不具合を事前に発見するほか、ユーザーのフィードバックを受けて機能の見直しを行います。

プロトタイプに関する詳細は、以下の記事で解説をしています。

■関連記事:
サービス開発の仮説検証に有効なプロトタイプとは?活用法やメリット、種類を解説

4.実装

プロトタイプが問題ないと判断されたら本番環境に実装し、生産体制・管理体制を整えます。

サービスデザインを活用して業務改善を行った事例

最後に、サービスデザインを活用して業務改善を行った事例をいくつか紹介します。

株式会社セントラルユニの事例

経済産業省の「サービスデザイン研究会 手引書及び報告書」によると、セントラルユニは2009年にオープンしたショールーム「スキルシミュレーションセンター(SSC)」をリニューアルし、「Mashup Studio」という名称に変更しました。この変更によって、社員、医療従事者、患者、地域住民などのステークホルダーを巻き込み・共創の場として活用されました。

また、自社と建設会社、設計事務所で構成されるプロジェクトチームに、エンドユーザーである医療従事者が検討プロセスの段階で参加し、サービスデザインに取り組みました。

この結果、以下のような効果が得られました。

  • エンドユーザー(医療従事者・患者)の視点の理解・共有
  • 空間をよりよく使用するための潜在的ニーズの引き出し
  • 建設会社や設計関係者とユーザー視点を共有し、事業バートナーとして良好な関係を構築

この事例は、より多くのステークホルダーを巻き込むことによって、業務改善が成功した成功事例の一つと言えます。

株式会社セブン銀行の事例

同資料によると、セブン銀行は2019年に、NECの顔認証技術を搭載している次世代ATMを開発し、順次導入を進めていたそうです。開発にあたり、開発パートナーであるNECと、全社横断で組成したテーマごとのワーキンググループで構成されるプロジェクトチームを結成。ユーザー調査を担う調査会社を加えて、サービスデザインに取り組んだそうです。コンセプト検討では、単に現金を引き出すだけでなく、未来のATMの価値を考えるところから始めたと言います。
この取り組みにより、以下の特徴を持つ次世代ATMが完成したとのことです。

  • 顔認証機能、本人確認書類を読み取っての本人確認
  • QRコードを読み取っての決済
  • Bluetooth機能を使用したスマートフォンへのクーポンなどの配信
  • 利用中に背後が確認できるミラー、左右からの視線を遮る仕切り、荷物置き、ドリンクホルダー、杖置きなど、利用者へのおもてなしの心を反映させた設備

セブン銀行が取り組んだサービスデザインの流れは以下の通りです。

  1. サービスコンセプトの検討
  2. 要件の定義
  3. 設計・プロトタイプ作成
  4. 実装

この事例は、日常的に使っているコンビニATMでも多くの業務改善が行われている、興味深い事例の一つといえます。

【出典】
経済産業省「サービスデザイン研究会 手引書及び報告書」を要約して作成

株式会社ダスキンの事例

同資料によると、ダスキンは近年、30代~40代の比較的若い世代の利用促進を課題としてきたとのこと。2019年には「ダスキンラボ」をオープンし、新商品・新サービスの創出・共有、検証の場にすることを目的としたイベントを定期的に開催しました。そこでは消費者の声を集め、テーマの策定や外部企業との共同研究を進め、イノベーションを生み出したそうです。
また、ダスキンは商品開発チームに調査会社の行動観察調査とユーザーによるフィードバックを加える形でサービスデザインに取り組み、30代~40代に向けた掃除用品「MuKu」を開発。その結果、以下の特徴を持つ「MuKu」の開発に成功したそうです。

  • リビングに置いても違和感がないデザイン
  • 隙間時間に気軽な気持ちで掃除できる設計
  • 4週間で交換するレンタル商品のため、いつでも清潔に使用可能

ダスキンが取り組んだサービスデザインの流れは以下です。

  1. 対象世代の行動観察
  2. 製品コンセプトの定義
  3. 製品開発
  4. 販路開拓・プロモーション

上記の事例は、日常で頻繁に使う掃除用品という道具であるため、細かいユーザーのフィードバックや意見を大切にした例の一つといえます。

【出典】
経済産業省「サービスデザイン研究会 手引書及び報告書」を要約して作成

まとめ

サービスデザインとは、顧客体験のみにとどまらず、提供する側の現場スタッフや組織・仕組みにまで広くフォーカスし、俯瞰的な視点でサービス全体をデザインする方法論です。
これにより新たな価値を模索し、新たな事業の創造や既存事業の改善などの効果が期待できます。

顧客体験に関する取り組みは、サービスデザインのほかにもUXデザインやCXデザインがありますが、それぞれデザインする領域が異なります。UXデザインは、ユーザーの利用シーンにフォーカスし、購入時などの利用体験をデザインします。一方のCXデザインは、アフターサービスなども含めたより広い範囲での顧客体験が領域です。

デジタル化が加速する近年では、さまざまな事業が連携し、新たなサービスや付加価値を持つ商品が増えています。顧客のニーズも商品やサービス単体にとどまらなくなり、サービスを提供する側の体制や仕組みまで考えなければ、顧客ニーズに応えるのが難しくなりつつあります。

サービスデザインの実践プロセスはさまざまです。今回解説したプロセスや成功事例をもとに、取り組んでみてはいかがでしょうか。

ニジボックスではサイト制作や開発における、情報設計やビジュアル設計といったUIデザイン面に加えて、ユーザーテストなどによるUX観点でのご支援も可能です。

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監修者
監修者_丸山潤
丸山 潤
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動

コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。

Twitter:@junmaruuuuu
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