【初心者講座】プロダクトアウトから見た新規事業開発方法をわかりやすく解説!
「起業したい!」「新規事業を立ち上げたい!」熱意に駆られているときには、
失敗のことを考えないものですが、実際に成功するのは非常に難しいと言われています。
そのような中にあっても、成功確率を高める新規事業開発の手法が「顧客開発モデル」です。
ニジボックスではこれまでに、顧客開発モデルを体系化したスティーブン・ブランク氏著『アントレプレナーの教科書』を翻訳し、顧客開発モデルを日本に紹介した、ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社の堤孝志さんをメンターに迎えた講座の様子や、顧客開発モデルの4つのプロセスについて解説した記事をこれまで掲載してきました。
この記事では、読者の皆さまに顧客開発モデルをプロダクトアウトの視点で捉えたプロセスについて、なるべく分かり易くお伝えしていきます!
目次
顧客開発モデルで新規事業を開発していくプロセスとは?
顧客開発モデルは、プロダクトの開発を行いながら、顧客やビジネスモデルの開発も同時に進めていく手法です。
プロダクトのアイデアが先に定まっており、そのプロダクトを必要としている顧客を探していくため、
プロダクトアウトに含まれるわけですね。
検証を行うわけですから、ローンチまでの過程で、何度も失敗があります。
しかしそれは、プロダクトの精度をより高めていくための小さくて賢い失敗です。
そのため、資金もヒューマンリソースも時間も、それほどかけることなく軌道修正ができ、
市場価値のあるプロダクトの完成へと導くことができるのです。
リーンスタートアップの「構築」「計測」「学習」のサイクルを素早く繰り返していくわけですね。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
出典:リーンスタートアップ、Eric Ries、日経BP社
そして、顧客開発モデルのプロセスを使ったプロダクトアウトの手法では、
まず小さくローンチして、そこから事業をスケールさせるところまでもっていきます。
どのようにでしょうか?
次の項から、そのプロセスについて詳しく解説していきます。
アーリーアダプターを見つける
プロダクトアウトの新規事業開発手法では、
「作りたいプロダクトのアイデアがある」ところからはじまるため、
できれば多くの人に使ってもらいたい、万人受けするものを作りたい、と思うかもしれません。
しかし、最初から万人受けを狙わないのが顧客開発モデルのやり方です。
ではどのような人をターゲットに定めるのでしょうか? その答えは、「アーリーアダプター」と呼ばれる人たちです。
アーリーアダプターとは?
「ある製品が世の中に浸透する前に、買ったり使ったりしてくれる人たちのこと」です。
テッキー(対象は問わず最新テクノロジーが大好きな人たち)とは違い、
あることに対しての切実なニーズを持っていて、そのプロダクトの熱心なファンになってくれる人。
つまり、そのプロダクトだけのアーリーアダプター(早い時期にアダプトする人)です。
そのため、アーリーアダプターとなる人は、サービスごとに変わってきます。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
最初から万人に受けるプロダクトを作ってはいけない理由
一般的に新しいプロダクトを世の中に出したい人は、
早期に莫大な売り上げを狙うばかりに、絶対数が多いメインストリームをターゲットにしがちですが、あまりお勧めできません。
なぜなら、メインストリームは「いますぐに!」「どうしても〜がしたい!」という、
切実なニーズがあるわけではないからです。
そのような弱いニーズを持つ、ただ単に「興味がある」程度の人は、余裕がある分品定めをする傾向にあるのです。
誤ってそのような人をターゲットにしてしまうと「あの機能はないのか」「この機能はつけないのか」と要望はどんどん膨らんでいきます。
しかも、そのような人には切実なニーズがあるわけではありませんから、
そのプロダクトがローンチされたからといって、必ずしもユーザーになってくれるとは限りません。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
もちろん、機能をたくさんつければつけるほど、開発にお金と時間がかかってしまいます。
仮説を立て、検証をしていくサイクル自体も大きなコストのかかるものとなり、
やがて、資金も時間も尽きて、プロダクトが完成しなくなってしまうわけです。
また、最初から機能が盛り沢山だと、
「ユーザーが切実に必要としている機能が何なのか?」
を特定し辛くなってしまうデメリットも出てきてしまいます。
そのようなわけで最初のうちは、万人受けするものではなく、
ターゲットをアーリーアダプターに絞り込んでプロダクトを開発していくのが、ベストなアプローチといえるでしょう。
アーリーアダプターのニーズ検証は「MVP」を活用しましょう
アーリーアダプターの切実なニーズを検証するためには、必要最小限のコストで機能を体験できる「MVP」の活用がキモになります。
では、MVPとは何なのでしょうか。
MVPとは?
Minimum Viable Productの略。
必要最小限のプロダクトのことを指します。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
顧客の切実なニーズを過不足なく満たす必要最小限の機能だけをプロダクトにもたせます。
無駄な部分がないことから「リーン」という言葉も使われます。
アントレプレナーが陥りがちなのは、初期の段階から機能を追加しすぎてしまう罠です。
万人に受け入れてもらえる完璧さを目指すあまり、高機能なものを作ろうとしてしまうのです。
MVPの活用事例:得意の「美味しいドーナツ作り」で起業するには?
たとえば、美味しいドーナツづくりの腕が評判な人が、ドーナツでビジネスを立ち上げようとするとき、
何に気を遣わねばならないでしょうか?
ドーナツという、プロダクトの見た目や店内の装飾、ロケーションでしょうか?
しかし、そのように「機能」を追加していくと時間ばかりが過ぎていき、費用も膨らんでいきます。
また、美味しいドーナツを食べたいニーズのある人に、
ドーナツの見た目や店舗のロケーションは、訴求力がありません。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
結局のところ「美味しいドーナツ」のニーズを検証するには「美味しいドーナツ」だけで十分なのです。
美味しいドーナツというMVPがあれば、
美味しいドーナツを食べたいと考えている人の切実なニーズを過不足なく満たすことができるわけですね。
MVPのメリットとは?
「必要最小限の構成でシンプルに機能を実現しているので、仮説検証のプロセスを小さく早く回せる」と堤さんは説明します。
「10回の試行錯誤より、100回の試行錯誤から学びを得るほうが成功率を上げられる」のです。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
MVPがどのようなものか、
また自分のプロダクトをまずはMVPという形で開発していくメリットについて理解したところで、
ここからは実際に、仮説・検証をしながらMVPを作っていくプロセスを解説します。
MVPを活用した顧客開発のプロセス
自分の頭の中にあるプロダクトアイデアをもとに、
「どんな人がそのプロダクトを欲しがるだろうか」という、
ターゲットにすべき顧客と、彼らが持っているニーズのメカニズムを論理的に想定します。
その際の想定(仮説)は、漠然としたものではなく、
- 飲食店にIT周りのサービスを提供している小規模の企業で、日々営業に勤しんでいる営業パーソン
- 交換した名刺の数が多すぎるため、持ち歩けない
- 連絡先に入れていない人に限って、連絡を緊急に取らないといけないような場面が何度もあり、出先でサクッと名刺情報を知ることができるようにしたい
という具合に、「超具体的」なものにしておきます。
次に、想定したニーズのメカニズムをもとに、
そのニーズを満たしてもらえるような、どのようなMVPを作るべきかを決めます。
そして、概要が定まった、あるいは段階が進んで形になったプロダクト(MVP)を使って、
顧客発見のためのインタビューを行います。
顧客発見インタビューの3ステップ
ここでは、「欲しいかどうか」を聞くだけではなく、
それを欲しがる必然性があるか、欲しがる人の特徴には何があるかなども確かめます(特徴把握)。
欲しがる必然性があれば、
プロダクトマーケットフィット(顧客のニーズをプロダクトが満たせている)していることになりますし、
特徴把握ができていれば、毎回インタビューしなくとも、
そのような特徴を持つ人のところにセールスをかければ販売できるという、再現性の裏付けにもなります。
そのような目的を達成するため、顧客発見インタビューは、
- 課題インタビュー(ニーズのメカニズムの仮説を検証)
- ソリューションインタビュー(プロダクトマーケットフィットの検証)
- 特徴把握インタビュー(アーリーアダプターの特徴を把握)
という、3つのステップを踏んで行います。
このように、切実なニーズを持つアーリーアダプターをターゲットに絞り、
プロダクトが本当に彼らのニーズを満たしているのかを繰り返し検証することで、
MVPを開発しながら顧客も開発していくことができるのです。
MVPを作る際に必要なのは、
「どうすればもっと安く早く仮説検証できるか」を常に自問すること。
何度も試行錯誤すれば、それだけ成功確率が高まるからです。
アーリーアダプターで実績を上げメインストリームへ拡大しよう!
ここまで、自分のプロダクトだけのアーリーアダプターを見つけ、彼らの特徴を把握することで、
再現性を担保でき、切実なニーズを持つ人たちに販売していく、
つまり、事業として成り立つようになる仕組みを解説してきました。
とはいえ、「それだけでは事業がスケールしないのでは?」という疑問も湧いてきます。
ここで大切なのは、「最初は」アーリーアダプターに絞り込むのが効率良いということ。
そのような人が早い段階で購入してくれるおかげで、事業が黒字化し、
そこを足がかりに機能をどんどん追加したメインストリーム向けのプロダクトを作ることができ、
事業をスケールさせることができるのです。
掲載許諾:ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ株式会社 堤孝志氏作成資料
まずは、アーリーアダプターとなる人たちのニーズを過不足なく満たすようなMVPを完成させ、
それを事業として成立させ、
そこから巨大市場を目指していくのが、顧客開発モデルでの新規事業開発手法。
プロダクトが完成しない、完成しても顧客がいないという失敗を避けられる方法なのです。
まとめ
今回は以下について学びました。
- 顧客開発モデルとは、プロダクトアウトでの新規事業開発手法であること
- アーリーアダプターとは、そのプロダクトに切実なニーズを持つ人のこと
- MVPを作り、仮説検証を小さく回していくことで失敗のリスクを最小限に抑えられる
- アーリーアダプターのニーズを最初に満たすことは、後々メインストリーム向けに市場を拡大していく足がかりとなる
-
自ら生み出すものに感じる愛着から、全ての人に広く受け入れられたいという欲を最初のうちは封印し、
まずはミニマムで世の中に送り出すこと。
ターゲットやプロダクトの機能は事業の成長段階に応じて適切に選択すること、検証し続けることで、
リスクを最小限に押さえながら、事業の成功確率をあげることができそうですね。
とはいえ、手法が理解できてもどう実践するのかに関して不安がある方もいらっしゃるかもしれません。
ニジボックスは、リクルートの新規事業研究機関から誕生した経緯があり、デザイン思考をはじめとする様々なビジネス手法を実際にリクルートの新規事業でも数多く実施し、検証を重ねてきております。
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参考サイトのピックアップ
・ラーニング・アントレプレナーズ・ラボ
http://le-lab.jp/
・顧客開発モデル1「顧客発見」
http://leanstartupjapan.co.jp/?p=175
・平成28年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 調査報告書
https://www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000156.pdf
・(第1回)ベンチャーキャピタリスト 堤孝志氏、飯野将人氏に訊く スタートアップの定義と「顧客開発モデル」の4ステップ
https://enterprisezine.jp/bizgene/detail/4153
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
note:junmaru228