5Aカスタマージャーニーとは?時代の変化に合わせた新しい理論を解説
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近年注目されている「5Aカスタマージャーニー」は、インターネットが普及した現代のユーザー行動を加味した理論です。
現代においてユーザーが起こす行動は、インターネットやSNSによる影響を多大に受けています。5Aカスタマージャーニーは、そうした状況にも柔軟に対応できる特徴があります。
この記事では、5Aカスタマージャーニーについて、従来型の手法も交えながら解説します。
目次
カスタマージャーニーとは
カスタマージャーニーとは、ユーザーが商品やサービスと出会い、購入・契約するまでのプロセスのことです。
カスタマージャーニーにはいくつかの種類がありますが、従来の手法としては「AIDMA」「4A」などが挙げられます。
また、カスタマージャーニーを可視化したものを「カスタマージャーニーマップ」と呼びます。
カスタマージャーニーマップは1988年代ごろにイギリスのマーケティング会社によって作られた概念であるといわれています。
AIDMAと4Aについては、後ほど詳しく紹介します。
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「5Aカスタマージャーニー」という新しい考え方
近年、AIDMAや4Aなどの従来に代わる新しい理論として「5Aカスタマージャーニー」が登場し、注目を集めています。
5Aカスタマージャーニーは、フィリップ・コトラーが提唱した考え方です。従来のAIDMAや4Aがインターネットからの影響を考えない理論であるのに対し、5Aカスタマージャーニーではインターネットでの共有・拡散を加味しています。
従来の一方通行のカスタマージャーニーから、新たにユーザーとインターネットの関係が反映されている点が従来のAIDMAや4Aとの大きな違いといえるでしょう。
従来型に比べ、5AカスタマージャーニーはSNSからの流入といった、今までの手法では取りこぼしてしまうようなポイントもカバーしているのが特徴です。実際に現代のユーザーは、最終的な意思決定の際、SNSなどの影響を多大に受けています。
5Aカスタマージャーニーは、こうしたプロセスを反映したものといえます。
「5Aカスタマージャーニー」の5Aとは?
上図は、5Aカスタマージャーニーの概要です。ユーザーの行動に、ユーザー間の接続性を反映しています。
ここからは、5Aのそれぞれのプロセスについて解説します。
1.認知(Aware)
認知(Aware)は、ユーザーが商品を知った段階です。
この段階は、従来のカスタマージャーニーと内容はあまり変わりません。ユーザーは、商品の感想を知人から聞いたり、サービスの広告を見たりして認知します。現代では、SNSなどがメインのタッチポイント(接点)になっています。
例)認知(Aware)におけるタッチポイント
- インフルエンサーのSNS
- 企業のSNS
例)認知(Aware)におけるユーザーの行動
- インフルエンサーが商品を着用・紹介しているのを見る
- 企業SNSの投稿から、受動的に商品を知る
また、友人・知人からの口コミもタッチポイントになる可能性があります。
2.訴求(Appeal)
訴求(Appeal)は、さまざまな広告や方法から自分好みの商品を見つけた段階です。この段階では、実際にブランドを比較検討している状態にあります。
例)訴求(Appeal)におけるタッチポイント
- 各企業のホームページやSNS
- 商品が載っている雑誌やパンフレット
例)訴求(Appeal)におけるユーザーの行動
- 商品に惹かれ、好き・好ましいと思う
- 比較検討の対象にするブランドを選ぶ
場合によっては、ここから次の「調査」を経由せずに「行動」まで進みます。
3.調査(Ask)
調査(Ask)は、惹かれた商品の中から「購入したい」と思うものについて自ら調べ、追加情報を得ている段階です。
企業が発信する情報はもちろん、他のユーザーの評価や口コミなども調査対象に当てはまります。
例)調査(Ask)におけるタッチポイント
- その企業や友人・知人のSNS
- 商品の比較・口コミサイト
例)調査(Ask)におけるユーザーの行動
- SNSで商品のレビューを調べる
- 友人に意見などを聞く
調査(Ask)が終わった後の流れとしては、次の「行動(Ac)」に進んで購入することもあれば、購入せずに「推奨(Advocate)」に進むこともあります。
購入に至らなくても「魅力を感じた商品の情報をSNSで共有する」「この商品に魅力を感じているとSNSで取り上げる」などの推奨行動をとるユーザーが、その一例です。
このように、5Aカスタマージャーニーではユーザー行動が順序通りに進むとは限りません。
4.行動(Act)
行動(Act)は、実際に商品を購入した段階です。
ユーザーは調査によって得た追加情報により、商品に強い魅力を感じて購入に至ります。
例)行動(Act)におけるタッチポイント
- 実店舗
- 企業のホームページ
- オンラインショップ
例)行動(Act)におけるユーザーの行動
- オンラインで商品を購入する
- 購入した商品を使ってみる
- Web上のサービスを利用する
行動(Act)には、商品の購入はもちろん、アフターサービスなどを通した体験やコミュニケーションも含まれます。
5.推奨(Advocate)
推奨(Advocate)は、行動した結果を多くの人へ伝える段階です。
ユーザーは購入した商品に満足し、時間の経過とともに商品に対して愛着を持っていきます。その愛着により、他者への推奨やリピート購入といった行動へと移っていきます。結果、企業は新規顧客の獲得や顧客維持を実現することができます。
例)推奨(Advocate)におけるタッチポイント
- SNS
- 実店舗
- 企業のホームページ
- オンラインショップ
例)推奨(Advocate)におけるユーザーの行動
- SNSに口コミを投稿する
- 知人に商品を紹介・推奨する
- 商品を再度購入する
- 商品を使い続ける
現代のユーザーは、SNSの口コミやレビューなどで他のユーザーの推奨情報を目にする機会が少なくありません。一方的に情報を受け取るだけでなく、相互に商品を推奨することもあります。
このように他ユーザーの推奨情報が手に入りやすく、コミュニケーションによって強化される環境では、推奨のプロセスがユーザーの意思決定に多大な影響を与えていると考えられます。
よって、推奨(Advocate)は、5Aカスタマージャーニーで最も重要なプロセスだといえるでしょう。
従来のカスタマージャーニーとの違い
ここからは、従来の手法と5Aカスタマージャーニーとの違いを解説します。
全ての認知ユーザーが推奨することを目指す
初めに、5Aカスタマージャーニーがどのような図で表すことができるのかを紹介します。
5Aカスタマージャーニーでは、ユーザーが商品を購入していない「認知」「訴求」「調査」の段階でも、口コミなどの「推奨」を行う可能性があります。必ずしも、前述の5Aカスタマージャーニーのプロセス通りに行動が進むわけではありません。
例えば、知人やインフルエンサーの推奨を見て、訴求や調査といった段階を踏まずに即座に行動(購入)するユーザーもいれば、SNSでシェアしてお薦めするユーザーもいます。
購入に至らないケースでも、その商品に魅力を感じて推奨するユーザーがいるのが5Aカスタマージャーニーです。
実際に、ある自動車メーカーでは、販売実績を大幅に上回る数の推奨行動があったと知られています。
従来のカスタマージャーニーは、プロセスが進むにつれて対象となるユーザー数が減少していく漏斗型を想定していますが、5Aカスタマージャーニーでは上図のような蝶ネクタイ型を目指すべきとしています。
他者への推奨が重要なポイント
前述の通り、5Aの中では「推奨」が最も重要なアクションです。あるユーザーの推奨行動が新規ユーザーの獲得につながるなど、そのメリットが大きいことが理由です。
そして、従来のカスタマージャーニーとは異なり、5Aカスタマージャーニーではプロセスの後半で対象となるユーザー数が増えていく可能性があります。
むしろ「認知」の段階のユーザー数と「推奨」の段階のユーザー数を、同数に近づけていく(=認知した人が全員推奨する)のが理想です。
AIDMA・4A・AISASとの違い
ここでは、従来の手法と5Aの違いに触れていきます。
従来の手法としては、前述のAIDMA・4Aのほか、AISAS※も有名です。
※AISAS(Attention Interest Search Action Share)は株式会社電通の登録商標です。
AIDMA
まずAIDMAとは、1920年代に提唱された概念です。AIDMAの考え方では、ユーザー行動を以下のように分類しています。
- 注目(Attention):ユーザーが商品の存在を知る
- 興味(Interest):ユーザーが商品に興味を持つ
- 欲求(Desire):ユーザーが商品を購入したいと思う
- 記憶(Memory):実際に商品を購入するまでの間、ユーザーがその商品の存在を覚えている
- 行動(Action):ユーザーが商品を購入する
AIDMAでは「注目」から「行動」に至る過程で、漏斗が先に向かって狭まっていくように対象となるユーザー数が減少していくことを想定しています。
4A
4Aとはデレク・ラッカーが提唱した概念で、購入後の「再行動」が追加されている点がAIDMAとの大きな違いです。
4Aでは、ユーザー行動を以下のように分類しています。
- 認知(Aware):ユーザーが商品の存在を知る
- 態度(Attitude):ユーザーが商品に興味・関心を持ち、購入したいと思う
- 行動(Action):ユーザーが商品を購入する
- 再行動(Act again):ユーザーが商品をリピート購入する
AIDMAと同じく、4Aでも「認知」から「再行動」に至る過程で、対象となるユーザー数が減少していくことを想定しています。
AISAS
AISASはAIDMAの考え方を、インターネットが普及した現代の購買行動に合わせたものです。
AISASではAIDMAの「欲求」「記憶」に代わり、「検索」「情報共有」が含まれ、ユーザー行動を以下の5段階としています。
- 注目(Attention):ユーザーが商品の存在を知る
- 興味(Interest):ユーザーが商品に興味を持つ
- 検索(Search):ユーザーが商品について検索する
- 購買(Action):ユーザーが商品を購入する
- 情報共有(Share):ユーザーが知人やSNSのフォロワーなどと商品を共有する
AISASと5Aカスタマージャーニーを比較すると、5Aカスタマージャーニーでは「推奨」の段階に重きを置いていることや、後半で対象となるユーザー数が増えていく可能性がある点に違いがあります。
AISASは、比較的5Aカスタマージャーニーと近い概念です。
違いとしては、AISASの「検索」「情報共有」がインターネット上での行動に限定されているのに対し、5Aカスタマージャーニーでは「調査」「推奨」がオンライン・オフラインを問わない点が挙げられるでしょう。
今までのカスタマージャーニーは古い?
ここまでの説明通り、カスタマージャーニーには従来型と新型があります。しかし、従来型が古いのかというと、一概にそうともいえません。
ここからは、従来のカスタマージャーニーのメリットや必要性を解説します。
顧客の導線をリアルに検討するには今でも必要
インターネットが普及した現代の消費行動の一つに「パルス型消費」があります。パルス型消費は、従来のカスタマージャーニーのプロセスを経由せず、ユーザーがいきなり商品を購入するというものです。
例えば「SNSでインフルエンサーが着ている商品が衝動的に欲しくなり、クリック一つで購入する」などが該当します。このパルス型消費に関しては、従来のカスタマージャーニーでは対応しきれないと考える企業もあります。
しかし、全ての購買行動でパルス型消費が起こるわけではありません。特に、高額な商品などでは、衝動的なパルス型消費は少ないと考えられています。
同様の理由でBtoBのビジネスでは、BtoCに比べてパルス型消費が起こりにくいといえるでしょう。
また、たとえパルス型消費のような衝動的な購買行動が起こっていても、従来のカスタマージャーニーが機能することも多いと考えられます。
例えば、本人は衝動買いをしたと思っていても、実際にはインフルエンサーの投稿を見て興味を抱き、その後SNS広告でその商品を目にして購入するという流れなら、複数のタッチポイントを経由していることになるからです。
このように、時代や消費行動が変わっても、実際のところ商品の認知から購入までの道筋がほとんど変わらないケースは少なくないでしょう。
そのため、従来通りの手法でカスタマージャーニーマップのベースを作れば、ターゲットや目的から離れてしまう可能性は低いと考えられます。
機能していない原因は「購入後」の設計不備
それでも「従来の手法では対応できない」と感じる場合は、ユーザーの購入後の行動を検討できていない可能性があります。
カスタマージャーニーのゴールは、新規顧客の獲得や初回購入にあるとは限りません。初回購入後のカスタマージャーニーを設計し、購入後のユーザーにとってほしい行動を明確にすることも大切です。
例えば、初回購入後に「リピート購入してほしい」「商品を継続利用してほしい」「SNSなどで拡散してほしい」と考えているなら、ユーザーの購入後、適切な頻度でタッチポイントを設定しましょう。
【例】
- 初回購入後のタッチポイント
- 商品購入のお礼メール
- 購入したツールをより効果的に使うためのナレッジを伝えるメール
- 商品の使用感を確認するアンケート
初回購入後に「自社商品の存在をユーザーが覚えていて、その商品に満足している」状態を目指すことが大切です。
新規顧客の獲得だけに注力していては、従来型のカスタマージャーニーだけでなく、5Aカスタマージャーニーでも失敗する可能性があります。
市場の変化に合わせてアップデートすることが大切!
従来の手法でも、5Aカスタマージャーニーでも、定期的にアップデートしなければ時代の流れに対応できません。
カスタマージャーニーマップを作ったら、定期的に実際のユーザー行動と見比べて、想定した効果が得られたかを確認しましょう。
この時、ユーザーの行動が想定と乖離している場合は、カスタマージャーニーマップを修正します。現代のユーザー行動は変化が激しいため、定期的に更新することが大切です。
ただし、ユーザーはいつも一貫した行動をするわけではなく、衝動的な動きをすることもあるので注意が必要です。
「従来のカスタマージャーニーは古いから使わない」と安易に考えず、さまざまな手法を用いて市場の動向を捉え、実際のユーザーの声を反映しながら実現可能な施策を検討していきましょう。
市場における消費行動の変化に伴い変わっていくユーザーの感情や、商品購入後の満足度までを設計するように、ユーザーに寄り添った施策を検討していくことが大切です。
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まとめ
従来のAIDMAや4Aが主にオフラインでの消費活動を想定した考え方であるのに対し、5Aカスタマージャーニーは、ユーザーとインターネットとの関係を反映した理論です。
現代のユーザーは最終的な意思決定をする際、SNSなどの影響を大きく受けており、5Aカスタマージャーニーは、こうした影響を反映したものといえるでしょう。
5Aカスタマージャーニーでは、「推奨」のプロセスが最も重要視されています。
従来のカスタマージャーニーは「認知」からプロセスが進むにつれて、ユーザー数の減少を想定していますが、5Aカスタマージャーニーでは「認知」段階のユーザーと「推奨」段階のユーザーを同数に近づけることを目指します。
また、ユーザーの行動は、時代に合わせて変わり続けています。
社会情勢やそれに伴う変化を適切に理解し、施策やカスタマージャーニーなどの分析手法をアップデートし続けることが必要でしょう。
ニジボックスは、UXデザインやデザイン思考をはじめとするさまざまなビジネス手法を実際に数多く実施し、検証を重ねてきております。
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元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
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