カスタマーサクセスとは?実践プロセスやカスタマーサポートとの違いを解説

カスタマーサクセス(CS)とは「顧客を成功に導く活動全般」のことです。
この記事では、まずカスタマーサクセスとは何かを、最低限押さえておきたい用語とともに分かりやすく説明し、その上で押さえておきたいポイントや実践プロセスを解説していきます。
目次
カスタマーサクセス(CS)とは?
カスタマーサクセスとは、「顧客(カスタマー)を成功に導くための取り組み」のことです。
ここでの「顧客の成功」は、顧客が商品やサービスを利用することで目的が果たされ、期待した成果を得られた状態を意味します。
また、特にtoB領域においてカスタマーサクセスは、成功によって顧客のビジネス上のゴールが達成されることを支援します。
そして、商品・サービスを継続利用してもらうことで、LTV(ライフタイムバリュー)を最大化することを目指すのです。
※LTV(ライフタイムバリュー)=顧客が取引を始めて終わるまでにもたらす利益総額
カスタマーサクセスを学ぶ上で知っておきたい10の用語
カスタマーサクセスには、関連する用語が多数あります。
そこで、まずはカスタマーサクセスを理解する上で外せない10の用語から説明しましょう。
これらを知ることで、理解がぐっとしやすくなります。
1. オンボーディング(Onboarding)
顧客が商品やサービスを新規で導入し、その後の継続利用に向けて使い方を理解してもらうようサポートすることを指します。
2. アダプション(Adoption)
オンボーディングの後、顧客が商品やサービスを運用し、定常的に利用することへの支援を指します。
3. エクスパンド(Expand)
顧客による商品やサービスの利用をさらに促進・拡大させることを指します。具体的には、契約の更新、利用単価を上げてもらうアップセル・クロスセルなどが挙げられます。
4. アップセル(Up-sell)
顧客が購入するか、しようとしている商品やサービスよりも高価なものを購入してもらうことです。
5. クロスセル(Cross-sell)
顧客が購入するか、しようとしているものに関連する別の商品・サービスも一緒に購入してもらうことです。関連商品と組み合わせて利用すれば、より顧客にとってメリットがあることを提案します。
6. ライフタイムバリュー(Life Time Value)
直訳すると「顧客生涯価値」で、1人または1社の顧客が自社に対してもたらす利益の総額。【顧客の平均購入単価×平均購入回数】で算出します。エルティーブイ(LTV)と略して使うことが多いです。
7. チャーンレート(Churn-rate)
解約率。サービスによって、顧客離脱率や退会率、有料会員から無料会員への切り替え率などを指します。
8. ネットプロモータースコア(Net Promoter Score)
顧客のロイヤリティ(企業やブランドに対する愛着や信頼)を数値化する指標で、顧客アンケートの集計結果から計算します。エヌピーエス(NPS)と略して使われます。
■参考記事:ネットプロモータースコアについては以下記事で詳しく解説しています。こちらの記事もぜひご覧ください!
NPS(ネットプロモータースコア)とは?顧客ロイヤリティを測る重要な指標を詳しく解説!
9. ARR(Annual Recurring Revenue)
年間経常収益。毎年決まって得られる「1年間分」の収益です。
10. MRR(Monthly Recurring Revenue)
月間経常収益。毎月決まって得られる「1ヶ月分」の収益です。MRRを12倍するとARRを算出できます。
カスタマーサポートや営業との違い
ここからは、カスタマーサクセスについての理解をさらに深めるために、よく比較される「カスタマーサポート」や「営業」との違いを見てみましょう。
カスタマーサポートとカスタマーサクセスの違い
カスタマー“サポート”とカスタマー“サクセス”は名前も似ていて混同されやすいですが、実際には役割も必要なスキルも大きく異なります。
分かりやすい違いは、顧客の課題解決に「受動的に関わる」か「能動的に関わる」かという「姿勢」の部分です。
カスタマーサポート
- 役割:顧客の問合せやクレームへ、迅速に対応し解決
- 姿勢:受動的、要望に応じて対応、単発的
- 目標:効率的解決
- 必要なスキル:顧客の問合せに、迅速・的確に対応するスキル
カスタマーサクセス
- 役割:顧客の成功体験の実現、そのための課題予測と解決
- 姿勢:能動的、先回りして対応、継続的
- 目標:顧客の成功
- 必要なスキル:顧客の課題を捉え、潜在的ニーズもつかめるスキル
どちらもそれぞれ重要な役割を担っており、カスタマーサクセスとカスタマーサポートのバランスをとった体制が必要です。
営業とカスタマーサクセスの違い
次に、カスタマーサクセスと営業の仕事内容を比べてみましょう。
カスタマーサクセスと営業との違いは、顧客対応の全体の流れの中での「役割の範囲」です。
営業は主に「顧客との契約締結まで」を担い、顧客に選ばれることが“ゴール”です。
カスタマーサクセスの場合は選ばれることが“スタート”で、その後の「契約した顧客の利用継続・拡大」を目指します。
企業により分担内容が異なることもありますが、代表的な分業の仕方は次のようなものです。
営業
- 役割の範囲:顧客に商品やサービスの価値を伝え、契約を締結する
- 指標:新規顧客の獲得
カスタマーサクセス
- 役割の範囲:商品やサービスを通して、顧客に成功体験を積んでもらう
- 指標:顧客の維持、利用内容の拡大
共通して求められること
- 自社サービスの熟知
- 顧客との関係性構築
営業と一口に言っても、顧客との関わり方は様々です。
営業の中でも、顧客の課題抽出から提案、契約後にも主体的に関与して顧客の成功体験を積んでもらうような「コンサルティング的」な関わりをしてきた経験のある人は、カスタマーサクセスの業務内容の一部をすでに担っているとも言えます。
カスタマーサクセスが重要な理由2つの背景
ここまでで、カスタマーサクセスの基本的な考え方について大枠を掴んでいただけたかと思います。
続いて、なぜ今多くの企業でカスタマーサクセスが重要視されているのかを見ていきましょう。
これには、世の中の大きな2つの流れが背景になっています。
1. サブスクリプション型SaaSビジネスの普及
カスタマーサクセスが重要視される1つ目の背景は、SaaS(サース)ビジネスが普及したことです。
SaaSとは「Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)」の略で、ソフトウェアの中でも従来のようにPC上にインストールして利用するのではなく、クラウドで提供されるサービスのことを指します。
その多くは、月額や年額など一定期間の利用権利に対して請求するサブスクリプション型です。
サブスクリプション型のSaaSビジネスは、顧客がサービス利用を開始するハードルが比較的低いのが特徴ですが、一方で顧客がサービスを利用しても成功体験を得られなければ、すぐに解約を検討されてしまいます。
そのため、利用開始後も顧客の状況に合わせて継続的な価値を提供・提示し続けて顧客に寄り添う、カスタマーサクセスの視点が欠かせません。
また、SaaSビジネスはスタートアップも参入しやすく、そのために市場競争が激化しがちです。
カスタマーサクセスは、顧客のサービス利用体験をより良いものとする点で競合他社との差別化にも重要なので、その必要性が高まっているとも言えます。
2. 所有から利用、モノからコトへの価値観の変化
カスタマーサクセスが重要視される2つ目の背景は、世の中の価値観が「モノからコトへ」と変化したことです。
消費者にとって、高価なモノを「所有」するだけではなく、必要な時に必要な分だけ「利用」するサブスクリプションサービスも選べる時代になりました。
ソフトウェアに限らず世の中の多くのサービスで、サブスクリプション型モデルへの転換が起こっています。
買い切り型の「モノ」であれば、一度購入した顧客はその商品・サービスをできるだけ長く利用・使用しようとします。
しかし、利用期間や機能に応じてお金を払う「コト」の場合、顧客はいつでも容易に“乗り換え”ができてしまうのです。
消費者の前には常に無数の選択肢が用意されており、「目的に合っていない」「やりたいことが達成できない」と思ったら、顧客はより良い「コト」を求めて去っていくでしょう。
商品・サービスがもたらす「体験」の内容で評価されるという価値観の中で、顧客へ能動的に貢献するカスタマーサクセスの視点が成長してきたのです。
カスタマーサクセスのメリットと効果
ここで、カスタマーサクセスに取り組むことでどのようなメリットが得られるのかを改めて見ていきましょう。
最も分かりやすいカスタマーサクセスのメリットは、プロダクトの継続利用が促進され、売上・利益が上昇することです。
しかし、メリットは金銭的なものだけではありません。
プロダクトを引き続き利用してくれる人が増えれば、プロダクトのことを好きな人も増えます。
ファンが増えれば、プロダクトを提供する自社の社員はそれを誇らしく感じるでしょうし、会社に対するエンゲージメントも高まるでしょう。
また、「このプロダクトに携わりたい」と自社を志望してくれる人の増加にも期待ができます。
このように、カスタマーサクセスはプロダクトに関わる人の気持ちをポジティブにさせる効果もあるのです。
そこからさらに「より良いプロダクトにしていこう」という作用が働き、サービスのさらなるグロースにもつながっていくという好循環が生まれるかもしれません。
■参考記事:サービスのグロースについては以下記事で詳しく解説しています。こちらの記事もぜひご覧ください!
グロースハックとは?プロダクトの成長に欠かせない考え方と進め方を解説!代表的なフレームワークも紹介
カスタマーサクセスの実践プロセス3STEP
ここからは、カスタマーサクセスを実践するためのプロセス3つのSTEPに分けて見ていきましょう。
顧客の満足度を高めて各プロセスを達成するごとに、収益拡大の機会が生まれることにも注目してみてください。
【STEP1】オンボーディング
カスタマーサクセスの1つ目のステップである「オンボーディング」とは、顧客がプロダクトを新規で契約し、導入に向けて準備を行うためのプロセスのことです。
顧客がオンボーディングの状態になるには、プロダクトの価値や使い方をある程度理解している必要があるため、オンボーディングを完了した顧客はその後も継続的に利用してくれる可能性が高まります。
逆にオンボーディングが完了していない状態の顧客は、サービスの価値を実感する機会もなくそのまま解約してしまうリスクがあります。
オンボーディングのプロセスでは、顧客が期待する成果や目標を知った上で、それにふさわしい導入方法を用意し、サポートすることが必要なのです。
見るべき指標
オンボーディング完了率など
施策の例
初期設定の簡略化やサポート、チュートリアルの用意など
【STEP2】継続利用
オンボーディングが完了したら、次にカスタマーサクセスは、顧客のプロダクト活用を定着させる「継続利用」のプロセスに入ります。
最初の用語集でいう「アダプション(運用)」や「エクスパンド(促進・拡大)」のフェーズです。
このプロセスで顧客に成功体験を積み重ねてもらうことが、長期継続による収益の積み重ねや、利用範囲の拡大につながります。
そのためには顧客の課題を先回りして抽出し、プロダクトをどのように活用すれば解決できるかを示すなど、利用満足度を高める施策を行い続けることが必要です。
施策が有効に機能しているかどうかを判断するには、継続期間の長さと、それがもたらす利益が目安となります。
見るべき指標
チャーンレート(解約率)、NPS、ARR、MRR、LTVなど
施策の例
UX・UI改善、キャンペーン実施、顧客とのコミュニティ形成など
【STEP3】アップセル・クロスセル
プロダクトを使い続けてもらう価値を顧客に感じてもらえたら、さらなる収益化のためにアップセルやクロスセルを目指します。
このプロセスでも、顧客との信頼関係や満足度の高さは欠かせません。
最初の用語集でもお伝えしましたが、上位の商品・サービスを契約してもらうのがアップセル、関連商品・サービスを追加契約してもらうのがクロスセルです。
新規顧客を獲得し続けるだけでは、収益の最大化はなかなか難しいものです。
契約した顧客が利用を継続することで収益が安定し、さらにアップセル・クロスセルにつなげることで収益が拡大します。
見るべき指標
アップセル・クロスセル率、LTVなど
施策の例
上位機能を一部無料で利用してもらう、顧客ごとにおすすめのプランを提示する、など
カスタマーサクセスに必要なスキルとマインド
最後に、カスタマーサクセス職を志望している人が知りたい情報として、どのようなスキルやマインドが必要になるのかを解説します。
業界により多少内容は異なりますが、ここまで紹介してきたようなカスタマーサクセスの一連の流れの中で、必要となるのは次のようなものです。
必要なスキル
コンサルティングスキル
営業との比較でも触れましたが、顧客に成功体験を積んでもらうにはコンサルティングスキルが大切です。
課題を抽出して解決に導く力や、顧客への提案力が問われます。
データ分析スキル
顧客の抱える問題・課題を適切に把握するには、データや事実を基にロジカルに思考できるスキルも重要です。
統計やデータ分析に長けている人は重宝されるでしょう。
必要なマインド
カスタマーサクセスに必要なのは「徹底して顧客の視点に立ち、顧客に寄り添って成功を一緒に喜ぶことができる」マインドです。
自社の収益が出たらそこで終わりという考え方ではなく、どうすればさらに成果を出して顧客に喜んでもらえるか、今どんな助けが必要か、常に「顧客のために」考え続ける姿勢が大切です。
まとめ
カスタマーサクセスについて解説してきましたが、いかがだったでしょうか?
この記事を参考に、ぜひ皆さんの日々の業務にもカスタマーサクセスの視点を取り入れてみてください。
顧客の満足度を高めるのには、UXやUIの改善も有効です。
下記資料では、ニジボックスがクライアント課題に伴走する中で、磨き上げてきたUI UXデザインのプロセスや支援事例の一端を資料として紹介しています。
ご興味を持たれた方はぜひ、下記ダウンロードリンクよりご参照ください!
■参考サイト:
・SalesMadia
カスタマーサクセス用語集|英語の表記つきでわかりやすく紹介

元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
note:junmaru228