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人間中心設計とは?今さら聞けない基礎知識を丁寧に解説!

人間中心設計とは?今さら聞けない基礎知識を丁寧に解説!

人間中心設計という言葉を一度は聞いたことがあっても、意味をきちんと理解できていない人も多いのではないでしょうか?
この記事では、人間中心設計とはどんな意味なのか、そして具体的にどんなプロセスで進めるのかについて紹介します!

人間中心設計とは?

人間中心設計とは、一言で示すと使う人のことをきちんと考えてモノを作るという考え方です。
まずは、人間中心設計の定義を知ることで、その基本的な考え方を理解しましょう。

ISOによる人間中心設計の定義

国際規格「ISO 9241-210:2010」は、人間中心設計をこのように定義しています。

システムの使用に焦点を当て,人間工学及びユーザビリティの知識と手法とを適用することによって,インタラクティブシステム(※)をより使えるものにすることを目的としたシステムの設計及び開発へのアプローチ。

ISO 9241-210:2010の翻訳版「JISZ8530:2019」より引用(※2.7項)
(※)ここでのインタラクティブシステムとは「ユーザーからの入力を受信し、出力を送信するハードウェア/ソフトウェア、またはサービスの組み合わせ。」と定義づけられています。

より平易な言葉で言い換えると、人間中心設計の定義は、「人間のことを理解し、ユーザーにとって使いやすいシステム作りを目指そう」ということです。
人間には、単調作業に対してストレスを感じる、長時間の作業に疲れを感じるなどの身体的・精神的特性があります。
また、可能な認知の範囲が限られているため、システムの操作手順が複雑だと覚えられない可能性があります。

このような人間の特性を踏まえて、「ストレス・疲れがあっても問題なく使えること」「簡単に操作手順を覚えられること」を前提とした設計が必要なのです。

モノ作りの考え方が技術中心から人間中心へ変わった歴史

人間中心設計の考え方は1900年代の中ごろから徐々に広がったものです。
それまでの多くのモノは「技術中心」で設計されていました。
まずは技術ありきでさまざまな製品が作られ、「人間が使う」ことはほとんど考慮されていませんでした。
1900年代前半ごろまでは、人間は機械の操作や読み取りを誤らないよう訓練を受ける必要があり、いわば人が技術に合わせなければならなかったのです。

しかし、いくら訓練を積んでもヒューマンエラーは起こり得ます。
そこで起きた多くの失敗を教訓とし、技術が人間に合わせる「人間中心設計」の考え方が確立していったのです。

専門家になるための資格も

「人間中心」への考え方が国際的に広がりを見せる中で、2000年代に入ると日本でも人間中心設計の業界団体が生まれるなど、関心を寄せる人が増えてきました。
2005年に設立されたNPO団体「人間中心設計推進機構」は、人間中心設計に関する資格認定制度を開始しました。
認定の種類は「人間中心設計専門家」「人間中心設計スペシャリスト」の2つで、いずれも資格を取得するには、人間中心設計・ユーザビリティ関連従事者としての実務経験が一定期間必要となります。

■参考サイト:人間中心設計推進機構の認定制度について

人間中心設計とUXの関連性・違い

UXという言葉を聞いたことがあり、人間中心設計とUXの関連性が気になった方もいるのではないでしょうか? 人間中心設計とUXの関連性について、ISO 9241-210では次のように明記されています。

設計の決定はユーザーエクスペリエンスに大きな影響を与える。人間中心設計は,設計プロセスの初めから終わりまでユーザーエクスペリエンスを十分に考慮することで良いユーザーエクスペリエンスの達成を目的とする。

ISO 9241-210:2010の翻訳版「JISZ8530:2019」より引用

人間中心設計の目的は良いUXを生むことです。
しかし、人間中心設計という手段だけで良いUXが実現されるわけではありません。
UXとはプロダクトの使いやすさだけではなく、マーケティングやブランドなどの要素も含む概念です。
つまり、人間中心設計はあくまで手段であり、そのプロセスを通して実現するものがUXです。

■参考記事:UXとは何かについて、もっと詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください!
ユーザーエクスペリエンス(UX)とは?〜UIとの違いから具体事例まで〜

人間中心設計の6つの原則

国際規格「ISO 9241-210」では、人間中心設計の6つの原則として以下が示されています。

  1. ユーザー、タスク及び環境の明確な理解に基づいて設計
  2. 設計と開発全体を通してユーザーが参加
  3. ユーザー中心の評価に基づいて設計を実施し、改良
  4. プロセスの繰り返し
  5. ユーザー体験全体を考慮して設計
  6. 専門分野の技能及び視点を含む設計チーム

ここからは、それぞれの原則について解説します。

1.ユーザー、タスク及び環境の明確な理解に基づいて設計

人間中心設計の1つ目の原則は、ユーザーについてきちんと理解した上で設計することを示しています。
原則内の「タスク」とはユーザーがプロダクトを利用する目的のことで、「環境」とはプロダクトを利用している状況を指します。

最初に、人間中心設計とは「使う人のことをきちんと考えてモノを作る」と説明しました。
ユーザーのことを考えたモノ作りをするには、ユーザーについて知らなければなりません。
まずは、ユーザーがどんな人であるかはもちろん、プロダクト利用時の目的・利用状況を知ることが重要です。

2.設計と開発全体を通してユーザーが参加

2つ目の原則は、ユーザーにも参加してもらいながら設計・開発を進めるということです。
1つ目の原則であるユーザー理解のためには、実際に彼らが参加してくれることが最も効果的です。

例えばユーザーインタビューや、ユーザーテストに参加してもらうなど、設計・開発全体を通したプロセスでユーザーに協力を仰ぐことで、よりユーザー視点が反映された良いプロダクトの開発につながります。

■参考記事:ユーザー視点を取り入れるための様々なユーザー調査手法について詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください!
どう使い分けるべき? UXデザインのためのユーザー調査手法とは

3.ユーザー中心の評価に基づいて設計を実施し、改良

人間中心設計の3つ目の原則は、開発も改善もユーザー中心の評価をもとに行うということです。

例えばユーザビリティテストでプロトタイプを評価してもらうなど、ユーザーの実際の声を聞いて彼らが求めていることを知ることで、ユーザーにとって使いやすいプロダクトに近づけることが可能です。
プロダクトの改善をする際には、実際の利用ユーザーに評価してもらうことができれば、より明確に課題を抽出でき、解決方法の手がかりを発見できる可能性が高くなるでしょう。

■参考記事:ユーザビリティテストについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください!
【初心者編】ユーザビリティテストとは?基礎知識やメリット、準備するものまでやさしく解説!

4.プロセスの繰り返し

4つ目の原則は、「人間中心設計の4つの基本プロセス」の反復を意味します。 この反復については次章でも詳しく解説します。

プロダクトができたら終わりではなく、その後の評価で発見した課題を解決し、再度評価→課題発見→解決のサイクルを繰り返す必要があります
なぜなら、サイクルを1周しただけで「全てが完璧なプロダクト」になることはまれで、サイクルを繰り返すことで徐々に完成度が上がっていくからです。

5.ユーザー体験(UX)全体を考慮して設計

5つ目の原則は、人間中心設計の目的を示唆するものです。

人間中心設計の目的とは、良いUXを生み出すことです。
UXとは、プロダクトを利用した際の体験・感情の総称で、それが「楽しかった」「便利だった」といったポジティブなものであれば「良いUX」といえます。

UX全体を考慮するということは、より複合的な視点が必要です。
例えばアプリを開発する際に、アプリ自体の機能性や使いやすさだけ考慮するのでは不十分です。
ユーザーの使うデバイスが何か、どんな状況で使うのか、トラブル時のサポート体制など、ユーザーがアプリを利用するときのあらゆる体験を想定しなければなりません。

6.専門分野の技能及び視点を含む設計チーム

最後の6つ目の原則は、設計・開発を進めるチームのメンバーに専門性の高い人を含める必要があるということです。
具体的には、人間工学やマーケティング、アプリケーション分野、プロダクトデザイン、経営分析、プログラミング、ユーザーサポートといった幅広い分野の専門家がいることが望ましいとされています。

現実的にはこれら全ての専門家を集めることは難しいと思いますが、できる限りユーザー中心の視点で開発を進められるチーム作りを意識する必要があるでしょう。

人間中心設計の4つの基本プロセス

人間中心設計の4つの基本プロセス画像
人間中心設計における開発は、調査→分析→設計→評価の4つを基本プロセスとしています
人間中心設計の基本方針は、この4つのサイクルを繰り返し、徐々に完成度を高めていくことです。
それぞれのプロセスについて、具体的な手法も交えて解説していきましょう。

1.調査による利用状況の把握と明示

最初のプロセスは、ユーザーの調査によってユーザーの利用実態を把握し、整理することです。
ユーザーを中心に据える人間中心設計においては、あくまでユーザーありきでスタートしますので、まずはユーザーの利用実態を把握することから始めます。

ユーザーの利用状況把握のための主な手法は、比較的短期間で実施できるアンケートやインタビューです。
予算やリソースに余裕があれば、対象プロダクトに応じてフィールド調査・観察やエスノグラフィ調査を実施することもあります。

2.分析によるユーザーの要求事項の明示

次のステップは、調査で得られた情報を分析して、ユーザーが求めていることを定義し、明らかにすることです。

ユーザーの要求事項の明示における有効な手法は、ペルソナやカスタマージャーニーマップの作成が挙げられます。
ユーザーのニーズをビジュアル化して整理することで、よりユーザー視点で求めていることを捉えることが可能です。

■参考記事:ペルソナについて詳しく知りたい方は以下の記事をご覧ください!
「ペルソナ」とは?ターゲットとの違いやペルソナ設定の重要性までやさしく解説

■参考記事:カスタマージャーニーマップについて詳しく知りたい方は、以下の記事をご覧ください!
【初心者向け】カスタマージャーニーマップとは?作る目的から作り方までやさしく解説

3.設計による解決策の作成

3つ目のステップは、明らかになったユーザーが求めていることを実現できる解決策を設計します。
ペルソナやカスタマージャーニーマップをもとにして、現状と理想のギャップとなっているものを埋めるための設計を行いましょう。

ここでは、プロダクトの試作品となるプロトタイプを作成することで、解決策を具体化します。

■参考記事:プロトタイプについて詳しく知りたい方は以下の記事もご覧ください!
サービス開発の仮説検証に有効なプロトタイプとは?活用法やメリット、種類を解説

4.要求事項に対する設計の評価

最後のプロセスは、解決策の評価です。
ユーザーが求めていることに対する解決策が妥当なものであるかを、ユーザーに評価してもらいます。

ユーザビリティテストで実際にプロトタイプを操作してもらいながら、ユーザーの声を集めましょう。
ここでの目的は、解決策とユーザーが求めていることの乖離を発見することです。
開発側で発見できなかった改善点を見つけることで、再度の調査や分析、設計を実施してプロダクトの精度を高めていきます。

人間中心設計とよく比較される「デザイン思考」

デザイン思考という言葉を世に広めたのは、アメリカのデザインコンサルティング会社IDEOといわれています。
IDEOの会長であるティム・ブラウン氏は、デザイン思考を「デザイナーが使うツールを活用した、イノベーションのための人間中心のアプローチである」と語っています。
「人間中心」という言葉が出てくるところからも、人間中心設計と近しい考え方であることが分かると思います。

また、デザイン思考の一般的なプロセスは「共感→情報分析→課題定義→アイデア→プロトタイピング→テスト」というものです。
先に説明した人間中心設計のプロセス「調査→分析→設計→評価」と似ていると感じたのではないでしょうか?

このように共通点の多い人間中心設計とデザイン思考ですが、前者は「ユーザーにとって使いやすいプロダクト作り」を目指し、後者は「今までにないアイデアによるイノベーション」を目指すという違いがあります。

よく比べてみると、プロセスにも違いがあることが分かると思います。
デザイン思考の「アイデア」に該当するプロセスが、人間中心設計にはないことも違いの一つです。

IDEOはデザイン思考を社会的課題を解決するための手法としても用いています。
例えばインドの低所得者層の衛生状況を改善するといった社会的課題は、複雑な要因が絡み合っていることから、その解決には革新的なアイデアが必要です。

一方で、アプリのユーザビリティを良くしたいといった課題であれば、人間中心設計の考え方で改善を進める方が適しています。

■参考記事:デザイン思考とは何かについて、もっと詳しく知りたい方は以下の記事を参考にしてみてください!
【初心者向け】デザイン思考とは?身近な事例で分かる!ビジネスに求められる理由と実践方法

「ユーザーの視点で考え続ける」ための人間中心設計

プロダクト開発の中で、ユーザーの視点が抜け落ちたまま進んでしまうことが多々あります。
その事態を避けるためには、常にユーザーの視点を忘れないことが重要です。

人間中心設計とは、開発における全てのフェーズにユーザーが参加することで、ユーザーにとって使いやすいプロダクトを作るためのプロセスなのです。
ぜひ今回の記事を参考にして、ユーザーにとって使いやすいプロダクト開発に活かしてください。

また、人間中心設計の目的は良いUXを生むことですが、UXと聞くと次のように思う方は少なくないかもしれません。
・UXという言葉は知っているが、実際どんなものかはよく分からない
・現状のビジネスで安定した収益を確保できているのでUXの必要性を感じない
・ユーザーの声を聞くという話は分かるが、具体的にどうすればいいかは分からない

下記資料では、「ビジネスにUXが重要な理由」について、事例を交えて分かりやすく解説しています。
ぜひUXの理解を深めることにお役立てください。

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監修者
監修者_丸山潤
丸山 潤
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動

コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。

Twitter:@junmaruuuuu
note:junmaru228