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UI UX Camp! 2026 〜いま、見つめなおすデザイン〜

UI UX Camp! 2026 〜いま、見つめなおすデザイン〜

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リクルートや大手企業の実績多数!

ニジボックスの案件事例をご紹介!


世界がデジタルシフトしていく中、「デザインはどうあるべきなのか?」という問いに対して、さまざまな職域の方々と、その本質的な価値・可能性を見つめ直し探求したい。そのような思いからスタートした、株式会社ニジボックス主催のイベント『UI UX Camp!』。5回目となる今回のテーマは「いま、見つめなおすデザイン」です。

今回は、当イベント初の2日間開催となり、より多くの方々の知見をお届けできました。特に、近年避けては通れないAIを絡めたテーマでのセッションも数多く行われ、改めてデザインを見つめ直し、アップデートするための変化を感じられる2日間でした。

ここからは、各セッションを要約したイベントレポートをお送りします。

株式会社ニジボックス齊藤氏と丸山氏の写真
(左)株式会社ニジボックス 事業統括本部 本部長兼 クリエイティブ室 クライアントソリューション部 部長/齊藤 光一、(右)株式会社ニジボックス 顧問/丸山 潤

目次

ビジュアル規定を超えて。~街と文化をつくる「オープンデザイン」の挑戦~

株式会社 VISIONs・一般社団法人 COMMONs引地氏と株式会社ニジボックス丸山氏の写真
(左)株式会社 VISIONs 代表取締役・一般社団法人 COMMONs 代表理事/引地 耕太、(右)株式会社ニジボックス 顧問/丸山 潤

『UI UX Camp! 2026』最初のセッションで登壇したのは、大阪・関西万博のデザインシステム『OPEN DESIGN 2025』を手掛けた引地耕太さんと、株式会社ニジボックス顧問の丸山潤さん。テクノロジーの進化に伴いデザインの価値が問い直される今、従来の枠組みを超えた「開かれたデザイン(オープンデザイン)」の可能性について、万博での実践を交えた議論が交わされました。

過去の経験から生まれた「開かれた」思想

セッションの導入では、引地さんが万博のプロジェクトに関わる以前の原点や、オープンデザインを掲げた背景が語られました。引地さんはかつて大きな大会の組織委員会に出向していましたが、そこでの度重なる混乱やクリエイターがたたかれる姿に強いショックを受け、社会とデザインの関係性に危機感を抱いたと言います。

「社会とデザインの関係性における信頼が少し失われた可能性があるなというのが、万博に関わる前の出発点でした。一部の関係者だけではなく、いろいろな方が参加できるような場を作ろうと考え、『プロセスや思いをできるだけオープンに公開しよう』というステートメントを最初の企画書に書きました」(引地さん)

この思想の通り、引地さんはプロセスをSNSなどで積極的にオープンにし続け、共創の波を広げていきました。

生命中心の未来を描くデザインシステムとプロトコル

続いて、万博の根幹となる「デザインシステム」の具体的な設計思想が明かされました。万博のテーマである「いのち輝く未来社会のデザイン」を受け、引地さんは人間中心から生命中心の未来を表現する生態系のビジュアルを構築します。

「デザインシステムというと統制的なルールをイメージしがちですが、僕らはそれを皆さんの目線を合わせるための『プロトコル(共通言語)』と呼んで定義しました。その上で、参加と共創の枠組みを入れ込めるように設計したのが特徴です」(引地さん)

このシステムでは、赤(人間の命)、青(自然)、グレー(AIやバイオなどのテクノロジーによって生まれる新しい命)の3色が重なり合う未来を表現しています。

一般ユーザーの手で育った『こみゃく』と二次創作

次に、デザインシステムのエレメントから生まれた『こみゃく』の広がりについて語られました。元々はデザインシステム内の「ID」という無機質な名称でしたが、ネット上で一般ユーザーが大喜利のように愛称をつけ始めたことが発端です。

「『ID』という名前はつまらないから愛称があるといいねとSNSでポロっと言ったところ、一般の方が『こみゃく』というぴったりな名前を出してくれました。元々色や形が変わってもいいという余白の仕掛けを提案書に組み込んでいたこともあり、おそるおそる始まった二次創作が、ガイドラインの整備によって安心して増殖し、リアルとデジタルに巨大な生態系として立ち上がっていきました」(引地さん)

文化を守るための「コモンズ」設立と公共財の保護

セッションの後半では、一過性のイベントにとどまらない、文化やデザインを社会に定着させるための取り組みが紹介されました。ネット上で自然発生した『こみゃく』という言葉の商標権が宙に浮いていることに危機感を持った引地さんは、自ら行動を起こします。

「悪意のある第三者に商標を取られて文化が死んでしまうのを防ぐため、博覧会協会(2025年日本国際博覧会協会)と交渉を重ねて公共財として守る出願をしました。その際、ある弁護士から『文化を生んだのだから守る責任がある』と言われ、衝撃を受けました。これがきっかけで、万博の先の未来をオープンデザイン的に共創していくための『一般社団法人COMMONs(コモンズ)』を立ち上げました」(引地さん)

建築家ではなく「庭師」へ:AIに代替されないデザイナー像

最後に、形にする作業がAIに代替されつつある現代において、これからのデザイナーが持つべきマインドセットについて深い洞察が語られました。引地さんは、これからのデザインのあり方を「庭師」というキーワードで表現します。

「ブライアン・イーノの言葉にもありますが、これからのデザイナーは一度作って終わりの建築家ではなく、手入れをし続けることで繁栄させていく『庭師』のようになるべきです。バラバラのものをつなぐプロトコルを設計し、人間・自然・テクノロジーの間に立ってハブとしてプロジェクトを前に進める存在になれば、AIに代替されることはありません」(引地さん)

手を動かす専門性を高めた先で視野を広げ、関係性を設計し、最後まで責任を取る。そのような、これからのデザイナーの進むべき姿が示され、セッションは締めくくられました。

無印良品のデジタルサービスはどのようにデザインされているのか

株式会社良品計画 水野氏の写真
株式会社良品計画 EC・デジタルサービス部 事業推進課/水野 寛

続いて、株式会社良品計画のEC・デジタルサービス部に所属する水野寛さんによるセッションでは、ブランドの普遍的な思想をデジタルサービスに落とし込むプロダクトマネジメントのあり方について語られました。

ブランド思想とデジタルサービスの位置づけ

セッションの冒頭では、無印良品の歴史とブランド哲学が紹介されました。1980年代の大量消費社会へのアンチテーゼとして生まれた無印良品は、無駄を省いた実質本位のものづくりを続けています。

「ビジネスの成功だけでなく、無印良品としての姿勢をぶらすことなくお客さまの提供価値に落とし込んでいく。これが難しさであり、やりがいです。デジタルサービスにおいては、無印良品の活動そのものを体現してお客さまと対話し、日常生活の接点になることが大事です」(水野さん)

2021年の第2創業を機に「感じ良い暮らしと社会の実現」を掲げ、温かみや手触り感といった情緒性をサービスに落とし込む「感じの良いオンライン」の提供を目指しています。

アプリと会員プログラムが抱えていた10年目の課題

続いて、10年目を迎えたアプリ『MUJI passport』とマイルサービスのリニューアルに踏み切った背景が語られました。当時の大きな課題は店舗とEC利用の分断、そして個人情報を取得していないため顧客を1to1で捉えられないことでした。

「アプリが、店頭での会員証提示のみで使われていたため、月1,000本以上の記事を配信しているオウンドメディアが閲覧されていませんでした。また、マイルとポイントという2つの通貨やステージ制といった複雑な仕組みがありました。商品の購入を超えた、無印良品の取り組みへの参画を促す装置へと、会員プログラムを進化させる必要があったのです」(水野さん)

「無印良品の思想」を体現するリニューアル設計

アプリ名を『MUJIアプリ』に変え、ホーム画面で会員証とオウンドメディアを統合する独自のUIで、店頭での使いやすさと暮らしのコンテンツへのアクセスを両立。さらに、メールアドレスの登録を必須化しました。会員プログラムも刷新し、他社にない思い切った施策を行ったといいます。

「無印良品の、『これがいい』ではなく『これでいい』という思想に準じています。誰にとっても分かりやすいようステージ制や期限によるリセット制を撤廃し、通貨をポイントに一本化しました。お買い物だけでなく、記事を読む、レビューを書く、資源回収といったさまざまな接点でポイントがたまるよう設計し、寄付も1ポイントから気軽にできる仕組みを導入しました」(水野さん)

リニューアル後の反響と今後の展望

最後に、リニューアル後の効果と今後の展望が語られました。メールアドレスのひも付け率は78%に達し、ポイント利用率は約2倍に増加。店舗受け取りといったOMO機能への接続も強化され、売り上げが大きく向上しました。今後はパーソナライズの強化や在庫システムを含めた抜本的なOMOの洗練を進めていく方針です。

「AIの時代に代替できない部分は、変化への適応や、自ら絵を描いて組織をまたいで推進していくことです。より上流工程や問題解決の議論に入っていける、変化を楽しめる主体性を持った仲間を求めています」(水野さん)

AI時代のデザインシステム運用のリアル 〜現場で変わったこと・変わらなかったこと〜

株式会社ニジボックス若菜氏・内田氏の写真
(左)株式会社ニジボックス クリエイティブ室 プロダクト推進2部 SaaSデザイン3グループ/若菜 郁、(右)株式会社ニジボックス クリエイティブ室 プロダクト推進2部 旅行デザイングループ グループリーダー/内田 美和

次は、株式会社ニジボックスのクリエイティブ室に所属する岸英里さんと若菜郁さん、ナビゲーターの内田美和さんによるセッションです。実際のプロジェクトでデザインシステムを運用してきた立場から、AIの現場活用やこれからのデザインのあり方が語られました。

デザインシステムの現在地

セッションではまず、デザインのルールやUIパーツをまとめた「ガイドライン」と、コードとデザインが同期する生きた仕組みである「デザインシステム」の定義が整理されました。

若菜さんは大企業向け業務系SaaSの現場において「現時点では開発と一気通貫で強く結びついたデザインシステムを完成系として運用しているというよりは、デザイントークンや基本的なUIルールを整理しつつガイドラインに近い形で運用しています」と現状を語りました。

また、新規立ち上げ要素の多いプロダクトを担当してきた岸さんも、完全に同期する手前の「システム未満ガイドライン以上」のグラデーションの中で、準備を進めながら走っているとリアルな現在地を明かしました。

運用における課題と「AIフレンドリーなデータ」という工夫

続いて、デザインシステムは中長期フェーズで真価を発揮する性質のものでもあるため、短期的な成果やリリーススピードが求められる初期フェーズにおいては、構造的に優先度が下がりやすいという課題が共有されました。また、デザインチーム単体で主導すると、他職種との共通言語にならず結果的に形骸化してしまうリスクもあるため、開発組織との距離など体制に関する課題も挙げられました。

こうした環境の中で、岸さんは個人が制作するデザインデータがバラバラにならないようガイドラインの順守を徹底しつつ、AIの台頭に合わせた新しい工夫を語りました。

「最近だと『Figma Make』や『Cursor』にデザインデータを読み込ませる機会も増えてきたので、AIをかませても崩れない『AIフレンドリーなデータ作り』は結構意識するようになってきたかなと思います。オートレイアウトを組んでいるかとか、命名が意味のあるものかという構造を正しくしておくと崩れにくいです」(岸さん)

実務におけるAI活用:アシスタントとしての自動生成実演

続いて、AI活用の現実的な実務プロセスが紹介されました。岸さんは、専用プラグインによるセルフチェックや、アイデア発散、過去のユーザーテスト結果の集約などにAIを使い、「優秀な同僚やアシスタント」というテンションで自らの判断の質を鍛えるという活用方法を紹介しました。

また、若菜さんからは、案件の背景や目的が書かれたビジネス検討シートの内容を基に『Figma』上に「案件概要シート」を自動生成する実務プロセスのデモンストレーションが実演されました。

さらに、デザイナーにとって一番身近なツールである『Figma』のAI機能(『Figma Make』)の具体的な活用方法へと話が進みました。岸さんは、初期段階の自由な案出しだけでなく、開発メンバーへの仕様説明の補助としても強力に機能していると話します。

作業の代替から「判断・ディレクション」を担う役割へ

セッションの締めくくりとして、AIによって初動のスピードや時間配分が激変する中での「これからのデザイナーの役割」が語られました。

若菜さんは「AIは一見もっともらしい回答を提示してくれるので、十分な理解がないまま使うと誤った方向に進んでいっても合理的に見えてしまう危うさがある」と指摘し、要件を正しく読み解き何を正とするか判断する力がより重要になると語りました。

岸さんも、手を動かす時間が減って「作る」ことから「導く・判断する」ことへ寄ってきたとし、それは「AIにディレクションする時間」であると言語化の重要性を説きました。

最後にナビゲーターの内田さんが「デザインシステムはデザイナーだけのものではない。考えるのをやめないことで職域を超えて上流へ『染み出し(自身の役割を越えて周囲へ影響を広げていくこと)』、組織やサービス全体に恩恵を出していきたい」と総括し、現場の知見にあふれたセッションは幕を閉じました。

「らしさ」を設計する

6D 木住野氏・株式会社ニジボックス 河合氏の写真
(左)6D アートディレクター・グラフィックデザイナー/木住野 彰悟、(右)株式会社ニジボックス クリエイティブ室 プロダクト推進2部 部長/河合 紘子

続いては、6Dのアートディレクター・グラフィックデザイナーの木住野彰悟さんを迎え、株式会社ニジボックスの河合紘子さんナビゲートによるセッション。数々の著名なブランディングやサイン計画を手掛けてきた木住野さんが、実際のプロジェクト事例を時系列に沿って振り返りながら、ブランドや企業が持つ「らしさ」を視覚化するプロセスを語りました。

多様なプロジェクトからひもとくアイデンティティの表現

セッションの前半では、木住野さんがこれまでに手掛けてきた代表的なプロジェクトが、当時のエピソードとともに紹介されました。香川県・豊島の「Teshima Factory」から始まり、老舗ブランド不二家洋菓子店のリブランディング、そして新宿の「北村写真機店」のブランディングへと話が進みます。

「不二家さんのプロジェクトでは、長年愛されてきた『らしさ』をどう現代にアップデートするかが鍵でした。歴史があるブランドだからこそ、単に新しくするのではなく、人々が頭の中で持っている『不二家らしさ』の本質的なイメージを抽出し、ロゴやパッケージを通じて再定義していきました」(木住野さん)

また、新宿の「北村写真機店」の事例でも、カメラの本質である「光がレンズを通る屈折の原理」を紋章のように記号化するなど、一貫した世界観の設計について触れられました。

さらにユニークなアプローチが求められた事例として小田急線 登戸駅のサイン計画のプロジェクトも紹介されました。

「文字が分かる・読み間違えないとか、色の視認性の問題とか、公共交通機関の駅という場で、大きく変えてはいけないという制限がある状況でどう対象キャラクターとのコラボレーション感を出すか、というのが難しかったです。その中でも、どこを切り取っても『らしさ』が伝わる、大人が見てもワクワクするような空間を目指しました」(木住野さん)

構成要素の分解と公共領域への展開

セッション終盤、木住野さんは「らしさ」とは雰囲気であり、それをプロとして解像度高く要素に分解し再構成することだと定義。そして、今後は公共領域のデザインシステムにグラフィックデザインの力を生かしたいと語りました。

「グラフィックデザインはコミュニケーションです。それが丁寧なものになれば、丁寧な人間関係につながっていく。世の中に必要な機能として残ればいいなと思っています」(木住野さん)

保育現場にAIを 〜人と技術に橋を架けるデザインで考えてきたこと

ユニファ株式会社 山口氏の写真
ユニファ株式会社 執行役員CPO プロダクトデベロップメント本部 本部長/山口 隆広

続いて、保育総合ICT『ルクミー』を運用するユニファ株式会社の山口隆広さんによるセッションが行われました。人間中心設計専門家である山口さんが、2023年から2025年にかけて保育現場に生成AIを導入してきた道のりと、技術と現場をつなぐ「信頼の橋」について時系列順に語りました。

2023年:現場への導入と社内の「信頼の橋」

保育現場において、保育記録に関する書類作成の負担は重く、離職の要因にもなっています。2023年初頭にAI活用の開発が始まりますが、保育施設の先生から『ChatGPT』を使いましょう」というニーズが出てくることはなく、現場への導入には大きな壁がありました。また、社内の元保育者メンバーからも「保育を軽んじていると思われるのでは」と懸念が示されます。

「AIプロダクトを出す上で一番のハードルは社内メンバーだったなと。社内メンバーとの信頼関係がないものを外には出せないよねというところがあったので、一緒に走るためのコミュニケーションが最初に架けた橋だったなと思っています」(山口さん)

UIから「AI」の文字を隠し『たよれるくん』という緩い名前にするなど、先生を構えさせない工夫で信頼を築きました。

2024年:課題の深掘りと「大義名分」の橋

2024年、山口さんは「AIによる書類の全自動作成」ではなく、先生の記録(主観)を元データにするアプローチを選択します。書類作成の負担の本質は「書くこと」ではなく「思い出す手間」にあると仮定し、既存データから要約を生成する『すくすくレポート®』を構想しました。仕事を増やさないルールを徹底し、リサーチを重ねる中で効率化以上の価値が見えてきたのです。

「書類を1回監査の人に見てもらったら、後は書庫に入り誰も見てくれないことも多いです。でも今回AIに絡めることで、自分が書いたことが他の先生の参考になり、将来のこどものプランを考える上でも使えるようになる。『それだったらもっと頑張って書類を書こうと思いました』と言われて、負荷軽減以外の価値って生み出せるんだなと感じました」(山口さん)

「自分だけでなく周囲も助かる」という大義名分を感じられる体験設計が、2つ目の橋となりました。

2025年以降:AIの浸透と「社会的責任」の橋

2025年を超えると、保育施設でも独自に『ChatGPT』を使うなどAIの浸透は加速します。また、少子化の中でベテラン先生の保育の質を若手先生が維持するためにもAIの活用が求められるようになりました。 

同時に、プロダクトが社会インフラとして機能するためには、「社会」への説明責任(3つ目の橋)が必要になります。個人情報の扱いについて有識者と議論を重ね、安心安全を担保しました 。

「『ルクミー』のAIを使っていたら安心安全を担保できて説明責任を果たせる、という材料を、プロダクト以外にわれわれが作る必要がある。社会責任、社会説明みたいなところが、必要になってきたなと思っています」(山口さん)

人と技術に橋を架けるデザイナーの存在

最後に山口さんは、形のないAIを現場に届ける上で、企画段階からデザイナーが入ることの重要性を強調しました。エンジニアやPdMだけで進めると技術偏重になりがちですが、現場のニーズに引き戻してくれるのがデザイナーです。

「技術的にできる、面白いよな、役に立ちそうだなというのはすごい分かるんですけども、人と技術、社会に信頼の橋を架けていかないと今後のAIプロダクトの信頼が得られなくなってしまう。皆さんがAIの事業を進めていく中で、こうした橋を意識して進めていけるといいんじゃないのかなと思っています」(山口さん)

丁寧なリサーチとデザインで「信頼」を創ることこそが、これからのAIプロダクト開発に求められる役割であると示され、セッションは締めくくられました。

AI時代のデザイン組織論 〜サイバーエージェント・リクルートが描く、クリエイターに求められる「役割」と「進化」〜

株式会社サイバーエージェント 佐藤氏・株式会社リクルート 磯貝氏・株式会社ニジボックス 齊藤氏の写真
(左)株式会社サイバーエージェント 執行役員 クリエイティブ担当・CyberAgent Creative Center CCO統括室 室長/佐藤 洋介、(中)株式会社リクルート サービスデザイン室デザインマネジメントユニットVice President/磯貝 直紀、(右)株式会社ニジボックス 事業統括本部 本部長兼 クリエイティブ室 クライアントソリューション部 部長/齊藤 光一

『UI UX Camp! 2026』初日のラストでは、株式会社リクルートの磯貝直紀さんと株式会社サイバーエージェントの佐藤洋介さんを迎え、株式会社ニジボックスの齊藤光一さんナビゲートによるパネルディスカッションが行われました。

リクルート:役割に閉じず物事を「動かすデザイン」

前半は、リクルートの磯貝さんから組織の特徴が共有されました。同社のデザインマネジメントユニットでは職種名を「デザインディレクター」に統一し、プロダクト価値を最大化する役割を担っています。

「『動かすデザイン』というフィロソフィーを掲げています。これは目的思考で、手段や役割に固執せず価値を出そうというスタンスです。AI時代でも本質は変わりません。むしろ『作る』作業が効率化されることで、よりやりたかった上流の攻めの領域にリソースを割けるようになります」(磯貝さん)

サイバーエージェント:「目的のデザイン」と創造性の強化

続いて、サイバーエージェントの佐藤さんからクリエイティブ戦略が発表されました。AIによりデザインの単一スキルが一般化するからこそ、目的をデザインする力が重要になると説きます。

「AIの発達によって表現手法は激変しますが、本質的な役割は変わりません。これからは単純作業を効率化させ、目的設定やクオリティ目標などのディレクションに寄せていくことが重要です。そのため弊社では、ものを見る力を養うデッサンや、いいものの原理原則を学ぶ美術史の講義など、基礎の筋力を体系的に鍛えるプログラムを行っています」(佐藤さん)

パネルディスカッション:意思を持って旗を立てるクリエイター

後半は、組織のリードや価値の評価について深掘りされました。経営陣がクリエイティブを理解しているサイバーエージェントと、現場の信頼を蓄積して領域を拡張してきたリクルートという社風の違いが明かされます。

「デザイナーは課題解決とアウトプットの両方を担える稀有な存在です。AI時代にはオペレーティブになるのではなく、自分の中に『意思』を持って目的の旗を立てることが大切です」(佐藤さん)

「リクルートも主体性にボトムアップで物事を進める会社です。方向性を提示したら、後はメンバーそれぞれの意思に合わせて好きにやっていいというマネジメントを意識しています」(磯貝さん)

これからのデザイナーに期待すること

最後には、各登壇者が「これからのデザイナーに期待すること」というテーマで持論を語りました。

「先ほどの『動かすデザイン』が、まさに僕の理想とするデザイナー像を言語化したものに近いと思っています。物事を動かして価値を出していくという姿勢、そのために1つの領域だけに閉じているのではなくて、統合的な視点でやっていく必要があると思います」(磯貝さん)

「これからのデザイナーに求められるのは、意思を持つことだと思います。与えられた役割をこなすだけでなく、自分なりの視点で課題を見つけ、新しい価値を提案してほしい。その主体性こそが、これからますます重要になるはずです。」(佐藤さん)

社会をつむぐデザイン 〜行政におけるデザインの「可能性」と「未来」〜

デジタル庁 志水氏・デジタル庁 浅沼氏・株式会社ニジボックス 丸山氏の写真
(左)デジタル庁 ファクト&データユニット・Data Design Lead/志水 新、(中)デジタル庁 参与/浅沼 尚、(右)株式会社ニジボックス 顧問/丸山 潤

『UI UX Camp! 2026』2日目最初のセッションは、デジタル庁参与の浅沼尚さんと、同庁ファクト&データユニットでデータデザインのリードを務める志水新さんを迎え、株式会社ニジボックス顧問の丸山潤さんがナビゲートを担当。デジタル庁発足時のデザインチーム立ち上げを振り返りつつ、行政におけるデザインやデータの利活用、そしてAI時代に向けた国家規模の体験設計について語られました。

デジタル庁の役割とこれまでのデジタル実装

セッションの前半では、浅沼さんからデジタル庁のミッションとこれまでの具体的な成果が紹介されました。同庁は国全体のデジタル化を推進するため政策と実装の両面を担い、民間専門人材を登用する「官民融合」の組織です。

「デジタル化を進める前提のルールを変えていくのがデジタル庁の重要な役目です。紙での書類提出を法令ベースで見直す取り組みを進め、ほぼ98%終わっています。これにより、地方自治体でも『ルールだから紙で出さなければいけない』とは基本言えなくなります」(浅沼さん)

また、共通のAIインフラを行政職員20万人に配る目標や、マイナンバーカードの普及による民間エコシステムとの連携強化など、生活や行政に密着した成果が数値とともに語られました。

AIエージェント型社会におけるデザインの多層化

続いて、AIの進化が社会にもたらす変化と、デザイナーの新しい役割について浅沼さんから提示されました。今後は複数のAI同士が自律的に通信し合う「エージェント型社会」の到来が想定されるといいます。

「デザインの大きな役割として関係性を作る、編み直すというのがありますが、そのファクターの1つにAIエージェントが入ってきます。生活レイヤーではAI・機械・人間の関係をどう作るかというインタラクションデザインが必要になりますし、国家レイヤーではAIを前提とした政策やルールメイキングの役割が大事になります」(浅沼さん)

さらに、AI普及の最大のボトルネックとなる「電力」などの地球環境リソースの限界に対しても、次世代を見据えて国家レベルでコミュニケーションを取りながらデザインしていく重要性が語られました。

データとデザインの融合:ダッシュボードの実践

後半では、プロダクトデザイナーからデータデザインの領域へとキャリアを広げた志水さんから、具体的なプロジェクトが紹介されました。志水さんの所属する「ファクト&データユニット」は、データエンジニアやPM、デザイナー、行政官らが融合した職能横断チームです。同チームが手掛ける『ジャパンダッシュボード』や『政策ダッシュボード』は、国の重要統計や医療DXを可視化し、合意形成のための共通の事実を提供するものです。

「政策を納得・合意させるためには、データが今どういう状況なのかを誰でも見られるようにする必要があります。言葉でコミュニケーションするのではなく、プロトタイプで未来を現実的に表現し、ものを見ながら会話できる地上戦に持っていくことが、信頼を勝ち取るデザイナーならではのアプローチです」(志水さん)

デザインの枠を超えて社会に介入する

最後のまとめとして、2名の登壇者からDXを推進する民間企業のデザイナーに向けてメッセージが送られました。

「デザインができることだけで行けるところって結構狭い気がしています。デザインのチームからちょっと外れて、他の必要なところに入っていくような“出島”を自分なりに作って広げていく。データやビジネスサイドとちゃんと会話をして飛び出してみることを期待したいです」(志水さん)

「国と行政、自治体に興味を持っていただいて、自分の生活や未来のためにどういうプロセスで物事が決まっているのかまでデザイナーが興味を持つと、いろいろな課題や気づきがあるはずです。価値創出に向けて動いてくれるデザイナーが増えると、日本はAI時代も伸びていくんじゃないかなと思ってます」(浅沼さん)

Designing AI products ~Meta・Amazonでの経験から紐解く、AIとデザインの10年~

プロダクトデザイナー チョ ヨナ氏の写真
プロダクトデザイナー/チョ ヨナ

次のセッションでは、Amazon、Metaなどで数々のAIプロダクトをひっぱってきたプロダクトデザイナーのチョ ヨナさんから、これからのデザイナーに必要な視点を語られました。

AIデザイン10年の変遷:不確実性を信頼に変える

前半は、この10年におけるAIプロダクトの進化が3つのフェーズで振り返られました。2015年頃、第1フェーズである「部屋の向こうにあるAI」ではスマートスピーカーが登場し、チョさんは対話型オープンプラットフォーム(後の『Bixby』)のUX基盤を設計。続くフェーズ「周囲にあるAI」ではAmazonで『Alexa』の多様なデバイスへの統合を推進し、2023年以降の第3フェーズ「共にあるAI」ではMetaで生成AIを搭載したスマートグラスなどのデザインをリードしました。

「ウェアラブルにAIが入ると、利用シナリオが予測できず難易度が上がりますが、どれだけ技術が進んでも課題は同じでした。AIは本質的に不確実性が高いからこそ、メンタルモデルをデザインし、ユーザーが安心して使い続けられる『信頼』を築くことが一貫したゴールでした」(チョさん)

信頼のUXを構築する3つのデザインポイント

中盤では、不確実性を解消して信頼を獲得するための具体的なアプローチとして「発見可能性」「予測可能性」「信頼性」の3点が提示されました。

1つ目の「発見可能性」は機能を見つけやすくする設計です。PC版『Alexa』アプリの事例では、あえてクリック型ボタンを設けて体験を挟んでから音声利用へ促したプロセスが明かされました。

「AIにより機能は早く作れても人間の理解スピードは変わりません。認知負荷を上げないようUXを丁寧に絞ることが重要です」(チョさん)

2つ目の「予測可能性」はAIの状態の可視化です。『Alexa』の光のアニメーションや会話モデルなど、見えない構造をシステム化する重要性が説かれました。

そして、3つ目の「信頼性」はテストと検証のデザインです。

「AIの世界では作ることより確かめることのほうが難しい。技術的な『できる』と日常の『使える』のギャップを埋めるには、限定公開プログラムや自然なフィードバックの仕組みが最終的な信頼を決めます」(チョさん)

AI時代におけるデザイナーの役割とマインドセット

続いて、チョさんはAIにより制作スピードが上がる時代におけるデザイナーのあり方を定義します。

「デザイナーの仕事は、長期ロードマップの中で優先度を決め、システムを保つ非常にハイコンテクストなものです。実は『Figma』で手を動かす時間は意外と少ない。ものを早くたくさん出せる時代だからこそ、原則と基準を作るデザイナーの役割はむしろ重くなります」(チョさん)

最後にチョさんは、デザイナーにとって必要なマインドセットを語り、自分自身の目で価値を見極められるデザイナーでありたいと結び、セッションは締めくくられました。

「デザイナーに持ってほしいのはクリティカルシンキングです。保証されていないベネフィットを追うのではなく、限界やリスクを見極める厳しい目を持つこと。私たちは単に見た目を作る人ではなく、人と社会にどのような影響を与えるかをデザインする立場だからです」(チョさん)

「使いやすさ」だけでは、「勝てる」サービスにはならない。~KPIとUXの分断を埋める、サービス戦略という「指針」~

株式会社ニジボックス 吉川氏・株式会社ニジボックス 永松氏の写真
(左)株式会社ニジボックス UX・ディレクション室 室長 横断UX・ディレクション部 部長/吉川 聡史、(右)株式会社ニジボックス UX・ディレクション室 横断UX・ディレクション部 1グループ グループリーダー/永松 健志

株式会社ニジボックスの吉川聡史さんと永松健志さんによるセッションでは、ビジネスの数字(KPI)とユーザー体験(UX)の分断を埋めるアプローチについて語られました。

KPIとUXが対立する背景と「小手先ハック」のわな

セッションの前半では、プロダクトマネジャーが追う「数字」と、デザイナーが追う「使いやすさ」がなぜ対立してしまうのか、その背景が語られました。

永松さんは「KPI達成のためなら多少の使いにくさには目をつぶるべき」という意見と、「ユーザー体験を磨きたいがROIの説明ができない」というデザイナー側の対立を挙げ、目的と手段がすり替わっている可能性を指摘。

そもそもサービスにおいて、ユーザーにとっての価値がROIにつながり、磨き込んだユーザー体験が「ユーザーの価値」になるならROIの説明ができるはず。逆に「ユーザーにとっての価値」としてインパクトがある部分ではないのに、”ピュアな”ユーザー体験を磨こうとするのは目的と手段がすり替わっている可能性があるのではないかと永松さんは考えています。

一方、吉川さんは、表面上の数字だけをハックしようとする弊害について、問い合わせ数を増やす施策を例に説明しました。

「全体の設計ができていないと、質の悪い問い合わせが増えてコールセンターが大変になり、最終的な購入にはつながらない。小手先で数字は上がっても価値につながっていないケースは多いです」(吉川さん)

「作ること」から「価値」へ:サービス戦略を共通言語に

続いて、AI時代においてチームの論点を「作ること」から「価値」へと変えるための「サービス戦略」について議論されました。

吉川さんは、制作が分業化される中でタスクベースの会話に終始すると、最初に届けたかった価値が劣化していくと指摘します。

「どのような価値を届ければいいのかという論点に対して、皆が職能の専門性を発揮して理想をぶつかり合わせることが重要です」(吉川さん)

永松さんは、何が価値で、なぜそれをやるのかを「価値・解決・具体」の3層構造で整理し、組織全体の共通言語にすることを提案しました。

例えば、「人々に求められる良いサービスを作ること」を価値とした時に、ニジボックスが取る解決策として「事業会社が良いサービスを作るための様々な支援を行うこと」、実行する具体例として「UXリサーチ・デザインで良い体験のサービスを描き、ディレクション・UIデザイン・開発でプロダクトづくりを支援する」と考えることができます。そして、この三層に分けることで、まず実行する具体例である、「ディレクション・UIデザイン・開発といった個別の領域」に意味があるのは「良いサービスを作る支援」につながるからと理由付けられます。そして、解決策である「事業会社への支援」に価値があるのは「良いサービスを作ること」自体に価値があるからだとつなげることができます。この三層を意識して行うことで、下層を行う時に上層とのつながりを守れているのかと振り返りながら進めることができます。

これにより、リサーチも単に声を拾うだけでなく、仮説をアップデートするためのものに変わります。

さらに吉川さんは新規事業でのリサーチ事例に触れ、「顧客と実際に会うことで、その課題を自分たちが解決したいんだという当事者意識や感情移入が湧いてくる」と、リサーチがチームを駆動する副次的な効果を語りました。

AI時代の要求定義:情報に溺れず価値を磨き込む

急速に進むAI活用において、人間が果たすべき役割の核心へとトークテーマは進展します。吉川さんは、最新のAIリサーチツールを実務に導入した際、情報が大量に収集される一方で古い情報が混ざるなどし、「情報に溺れて収拾がつかなくなった」という失敗談を明かしました。

「要求定義の段階で、これまで以上にターゲットや課題を構造化しきるようにしました。そうして人間が設計を固めた上で、検証や要素への落とし込みにAIを使うと爆速でワイヤーフレームまで落とし込めます。今のAIはプロダクトの暗黙知や世界観を出せないので、思考の設計は人間がやるべきです」(吉川さん)

アウトプットからアウトカムへ

最後に、これからのAI時代に求められる総括として、成果の捉え方を変える重要性が強調されました。

「AIが一晩で作ってくれる時代に、やったこと(アウトプット)は誇れない時代になってしまったと思います。価値あること(アウトカム)を評価する形へ動かしていかなければならないです」(永松さん)

東急URBAN HACKSが挑む「まちづくりDX」と「アクセシビリティ」〜内製開発チームが描く、公共インフラにとってのあるべき情報発信〜

東急株式会社 URBAN HACKS 石井氏・東急株式会社 URBAN HACKS 山嵜氏の写真
(左)東急株式会社 URBAN HACKS/石井 大河、(右)東急株式会社 URBAN HACKS サービスデザイナー/山嵜 重則

続いて、東急株式会社がまちづくりのDXを目指して設立した開発組織「URBAN HACKS」の石井大河さんと山嵜重則さんによるセッションが行われました。リアルとデジタルを融合した「まちづくりDX」と、公共インフラにおける「Webアクセシビリティ」への挑戦の道のりが語られます。

東急「URBAN HACKS」のまちづくりDXと内製開発

2021年に設立された「URBAN HACKS」には現在、約100名の専門人材が在籍し、リアルとデジタルを融合したサービス構想を目指しています。

「東急線アプリなど東急のさまざまなデジタルサービスを内製開発しています。また、デジタルチケットサービスの開発では改札のテスト機を使ったQR乗車券のテストを行ったり、リテール領域のアプリ開発では商業施設での店舗でのオペレーションテストを行ったりするなど、実際の現場に行くアクションリサーチも大事にしています」(山嵜さん)

単体で動くのではなく、東急の各事業部やグループ会社と同じ目線でユーザーや事業の課題に向き合う「共創の場づくり」を重視しています。

リアルでのバリアフリー実績をデジタルの土台へ

次に、2025年6月にフルリニューアルした「東急・東急電鉄公式サイト」が紹介されました。鉄道情報は公共性が高いため、あらゆる人に届ける必要があります。東急電鉄では、ホームドア設置や車内のフリースペース拡充といった「リアルのバリアフリー」を進めてきました。

「ユニバーサルなサービスの実現のため、リアルの施策と同様に、デジタルの世界でもアクセシブルな状態を提供していかなければいけないと考えています。まずは自分たちがデジタル庁のガイドブックを読み合わせるなど、ボトムアップでの学習から始めました」(石井さん)

さらに「合理的配慮の提供」の義務化も見据え、早期からビジネス部門と関心を高め合い認識をそろえたといいます。

適合性検査とWebアクセシビリティの苦労点

新サイトでは「WCAG 2.2 レベルAA」を目標に掲げて実装を進め、「Webグランプリ2025」でアクセシビリティ賞を受賞。ほとんどのページにおいてA基準で99%、AA基準で90%を満たしていますが、内製チームならではの苦労もあったといいます。

「カルーセルのように正解の判断が難しいコンポーネントもありました。また、検査機関はあくまで規定の検査を行うことが目的であり、絶対的な正解がない中で、自分たちで考える負荷がかなり大きかったです。今後、どのような道筋でアクセシビリティ向上を実現していくのか、よりチームでの議論が必要になると感じています」(石井さん)

これからやっていくこと:チェックリストを超えた体験設計

終盤では今後の展望が語られました。現在は、視覚障害のある方にシナリオに沿ってサイトを触ってもらうユーザーテストなども進めています。

「ユーザーテストを行うと、検査では出てこなかった課題も見えてきます。アクセシビリティを単なる配慮や、用意されたチェックリストを満たすことだけで終わらせず、私たちは誰1人取り残さない体験を目指していくべきだと思っています」(山嵜さん)

質疑応答

最後に株式会社ニジボックス顧問の丸山さんが登壇し、「URBAN HACKS」の組織風土や、実際にどのような業務に従事しているかといった質疑応答が展開。また、山嵜さん自身、東急沿線に住んでいることにも触れ、自分が生活するリアルな街のビジネスや生活と接続する面白さについても語られました。

あすけん流・UIデザインの意思決定 〜多職種連携で「アプリが続く」を生む高速PDCA〜

株式会社asken 伊藤氏の写真
株式会社asken プロダクト開発本部 副本部長/伊藤 慎介

続いて、AI食事管理アプリ『あすけん』を運営する株式会社askenのプロダクト開発本部副本部長・伊藤慎介さんによるセッションでは、多職種が連携して高速にPDCAを回す「あすけん流」の意思決定が語られました。

同社はミッションミッション「ひとびとの明日を今日より健康にする」の下、「Do, Do, Do, Learn, Think,」と「+Speed」というコーポレートバリューの中の2つを特に重点に置き、チャレンジと改善を重視しています。伊藤さんは「ユーザーさんの貴重な可処分時間をいただくためには、自分たちも楽しみながらプロダクトに思いを込める。その結果、明日も使いたいと思ってもらえるアプリになります」という思いを胸に、2つの事例を紹介しました。

事例1:音声からおまかせへ、『AIおまかせ記録』の高速ABテスト

1つ目は、食事記録の手間を解消する新機能の事例です。話しかけたり、テキスト形式で食べたものを伝えるだけで記録できる『話して記録(β版)』(現:AIおまかせ記録)を開発して商用リリースしたものの、初期の利用開始率は想定を下回っていたといいます。ユーザーのコメントからは「外や電車では声を出しづらい」という音声入力の難点が見えてきました。

「音声入力を前面に出すのではなく、生成AIの力で『簡単にお任せで記録できる価値』をシンプルに伝えることで、利用開始率を上げられるのではないかと仮説を立てました」(伊藤さん)

チームは即座にABテストを実施し、機能名を変えてテキスト入力をメインとしたUIへと刷新しました。利用開始率が大きく改善したため、即座に『AIおまかせ記録』へとアップデートし、ユーザーからは「神機能」と高い評価も得られました。

事例2:ユーザーの声に即応した体重グラフのリニューアル

2つ目は、Android版の『体重グラフ』のリニューアル事例です。成果を明確に感じられるようUIを刷新したものの、直後にヘビーユーザーから不満が集まり、データ上でも数値の低下傾向が見えました。

そこでデザイナーの発案で翌週にクイックなユーザーアンケートを実施。課題を基に仕様を詰め、リリースからわずか2週間後には改善版の再リリースに踏み切りました。

「ユーザーさんからいただいたレビューやアンケート結果、データ分析を基に、一度出して終わりではなく、リリース後も2回の改善を、PdM、デザイナー、エンジニアで一致団結してクイックに進めました」(伊藤さん)

目盛りの増量や表示切り替えの追加、縦幅の変更などの修正を即座に反映し、ユーザーからも喜びの声が上がりました。

※セッション後の後日談:無事Androidで改善効果が現れ、iOSのグラフリニューアルもセッション後に完了しました!

おわりに:多職種One Teamで楽しんで回す高速PDCA

セッションの最後に伊藤さんは、高速でPDCAを回し続けるチームのあり方について次のように締めくくりました。

「チームメンバーがつまらない、つらいと思っていると、それはユーザーさんに伝わってしまう。だからこそ、プロセス自体を全員で楽しみながら、さらに使い続けたいと思えるプロダクトへ改善を続けていきたいと思います」(伊藤さん)

プロンプトの先へ〜ストーリー化×オペレーションで勝つUI UX〜

btrax ブランドン・ヒル氏・THE GUILD 深津氏・株式会社HEART CATCH 西村氏の写真
(左)btrax CEO/ブランドン・ヒル、(中)THE GUILD インタラクションデザイナー/深津 貴之、(右)株式会社HEART CATCH 代表取締役・プロデューサー/西村 真里子

2日間に渡って開催された『UI UX Camp! 2026』のラストは、モデレーターの西村真里子さん進行の下、THE GUILDの深津貴之さんとbtraxのブランドン・ヒルさんによるセッションが行われました。AIがデザイン現場に定着した今、デザイナーが本当に大切にすべきスキルや組織のあり方について議論が交わされます。

サンフランシスコのAI熱狂と日米のキャリア観の違い

冒頭、ブランドンさんから、AIによって急速に活気を取り戻したサンフランシスコの現状が共有されました。街の広告はAI一色になり、毎日多数のイベントが開催されています。さらに、ブランドンさんはコミュニティ「The AI Collective」の日本チャプターを立ち上げ、オフラインでの情報交換を推進しているといいます。

続いてテーマは「日本市場へのAI浸透」へと展開し、深津さんは次のように予測します。

「日本では労働の解雇規制が厳しめなので、AIによる一大リストラは起きない、代わりに新規の採用が遅れる。余った人材で新規事業をどうやるかという、違う形のAI活用が花開きそうな気はします」(深津さん)

一方、ブランドンさんはアメリカのシビアな環境を引き合いに出し、個人の主体的なキャリア構築の必要性を訴えました。

「アメリカは『1カ月後にAIを使えるようになりなさい。さもなくばあなたのポジションはなくなるよ』というシンプルで個人主体な世界観。日本は会社や上司からの指示がない限り個人で動くのはマイノリティな気がしますが、この状況が未来永劫(えいごう)続くのは難しいと思っています」(ブランドンさん)

自動運転に例えるAIと、最上流へ登るべき構造的理由

これからのデザイナーに必要な能力として、深津さんはAIの本質を「自動運転」に例えました。

「運転中のことの8割は任せられるので、人間がハンドル操作の精度を競う意味はなくなります。人間がインパクトを与えるのは、目的地をどこにするかという最初の入力やディレクション。基本的には上流工程の大きな方向性のほうがメインになってくるのではないかと思います」(深津さん)

ブランドンさんも「画面の中で行われることはほぼほぼAIがやる時代。画面の外側で行われる課題やユーザー理解、仮説、プロセス作りが人間の価値」と同調し、さらに「デザイナーは営業をしたほうが良い」と説きます。

「デザインの仕事を長い時間やってくると最終的には人と接することがデザイナーにとって最も重要なスキルセットなんだと感じています。具体的に言うと、『相手を理解すること』と『自分が作ったものを、責任を持って表現して相手に理解してもらう、承認してもらうプロセス』が1 番重要」(ブランドンさん)

オペレーションの激変と「デザイナー不要論」への危機感

後半は、制作現場におけるオペレーションの変化と危機感が語られました。ブランドンさんは2023年時点で、通常8週間かかるデザイン案件を、グラフィックデザイナーとイラストレーターの代わりにプロンプトエンジニアをチームに組み込むことで3週間に圧縮した自社の事例を紹介しました。

一方、深津さんは「デザイナーなしのチームで開発しようぜ」という流れが周囲で起きつつあることに警鐘を鳴らします。

「デザイナーが下流の制作レイヤーで勝負をする限り、最終的にはAIとの戦いに巻き込まれる。スキルや経験を持っているデザイナーほど、手前の設計や計画という、縦方向に伸びることにキャリアを使っていかないと苦戦する。早めに最上流に登るようにしないと、後で呼ばれる立場から出られなくなる構造があります」(深津さん)

外見だけのデザインは学習されてしまうため、「外から観測できない仕組みやコンセプト、ワークフローを含めたデザイン」を作る重要性が強調されました。

イノベーションを生むリアルな「場」とコミュニケーションの価値

最後に、AI時代だからこそ逆説的に高まる「オフラインのリアルな場」の価値について意見が交わされました。AI同士の対話は最適解に行き着くだけで、寄り道しながら今までにないものを考えるのは人間の仕事だとブランドンさんは言います。

「シリコンバレーでイノベーションが起こる有名な理由は、違うバックグラウンドの人たちがリアルで交流するから。意見や視点が全然違う人たちが議論をすることで、今までにないアイデアが想起される。同じ場所にいる温かみや空気みたいな、非言語な部分の価値、雑談できる場所の価値はめちゃくちゃ上がると思います」(ブランドンさん)

深津さんもこれに応じ、「バーベキューが2026年のトレンドだと思う」とユーモア(アメリカでは週末に庭でバーベキューなどホームパーティをして人が集まることが多いことを踏まえての)を交えてリアルな場の重要性を語りました。

まとめ

今回のイベントも、事業会社からデザイン、UI UXに関する企業、デジタル庁と幅広い業界からスペシャリストたちに登壇いただき、大盛況のうちに幕を閉じました。

生成AIをはじめ、テクノロジーが急速に進化している中でも、デザインの本質が「人を理解し、より良い体験を生み出すこと」であることは変わらない。その中で、テクノロジーをどう使い、どう未来を創っていけばよいのか、そのような示唆を数多く得られるイベントとなったのではないでしょうか。

イベントのアーカイブは、株式会社ニジボックス公式YouTubeチャンネルで公開していますので、ぜひこちらもご覧ください。

『UI UX Camp! 2026』アーカイブ動画(株式会社ニジボックス公式YouTubeチャンネル)


ニジボックスではサイト制作や開発における、情報設計やビジュアル設計といったUIデザイン面に加えて、ユーザビリティテストなどによるUX観点やLP改善のご支援を行っております。

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監修者

監修者
監修者_丸山潤

丸山 潤

元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動

コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。

note: junmaru228