リーンキャンバスとは?ビジネスモデルキャンバスとの違いや要素を解説(テンプレートDL可能)
「ビジネスにUXが重要な理由」を事例を交えて解説!
リーンキャンバスとは、ビジネスモデルキャンバスを改変し、ビジネスの構造を1枚に可視化したフレームワークです。
この記事では、リーンキャンバスとは何か?から、その特徴と構成要素、ビジネスモデルキャンバスとの使い分けについて解説しています。
目次
リーンキャンバスとは?
リーンキャンバスとは、1枚のシートでビジネスモデルを可視化・一望できるフレームワークです。
起業家のアッシュ・マウリャ氏が著書『Running Lean ―実践リーンスタートアップ』において提唱しました。
リーンキャンバスの「リーン(Lean)」は英語で「効率的な」という意味の単語です。
新規事業を成功させるためには、ユーザーの声を聞きながらビジネスを高速で軌道修正し、磨き込んでいく必要があります。
そのためにリーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスを改変し、スタートアップ企業や新規事業向けに最適化されたものになります。
リーンキャンバスとは、ビジネスのPDCAを最速で回すためのツールなのです。
ビジネスモデルについては以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はこちらもぜひご覧ください!
また、新規事業のアイデア創出については以下の記事で解説しています。こちらもぜひご覧ください!
リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスの違い
先に述べたように、リーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスをカスタマイズしてスタートアップ企業や新規事業向けに最適化されたものです。
では、ビジネスモデルキャンバスとリーンキャンバスの違いはどこにあるのでしょうか?
2つのキャンバスを見比べてみると、形状はとても似ているのですが、キャンバス中の9つの項目に違いのあることが分かります。
リーンキャンバスは、ビジネスモデルキャンバスにおける顧客(右側)の解像度をあげたものと言えます。
そのため、ビジネスモデルキャンバスにおけるコスト要素(左側)が、リーンキャンバスでは左下のコスト構造に集約されています。
ビジネスモデルキャンバス中の「キーパートナー」「主なリソース」といった企業活動の部分については、スタートアップや新規事業など、小規模・小資本で始める段階ではあまり使用されない項目もあります。
そのため、顧客の抱える課題やそれに対するソリューション、提供価値といったプロダクトについて、ビジネスモデルキャンバスよりも一歩踏み込んだ整理ができるリーンキャンバスの方が、スタートアップ企業に向いていると言われています。
また、ビジネスモデルキャンバスは既存事業、リーンキャンバスは新規事業・スタートアップと完全に使い分けをするだけでなく、リーンキャンバスとビジネスモデルキャンバスを併用して、「ズームイン・ズームアウト」という3つのステップで検証・修正を繰り返し、ビジネスモデルをブラッシュアップしていく方法を取ることもおすすめです。
【ズームイン・ズームアウトの3つのステップ】
- ビジネスモデルキャンバスを使って、ビジネスモデルの全体像と、各ブロックの関係性を大まかに掴みます
- ズームイン
リーンキャンバスやバリュープロポジションキャンバスなど、顧客によりフォーカスしたフレームワークを利用します。
顧客イメージをより詳細につかむことで、自社の製品やサービスが提供する価値が、顧客セグメントと合っているのかを検証していきます。- ズームアウト
アンゾフの成長マトリクス、事業環境マップなど、外部環境を掴むためのフレームワークを利用します。
自社に影響を及ぼす外部環境を分析して、ビジネスモデルの再構築を図ります
ビジネスモデルキャンバスについては以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はこちらもぜひご覧ください!
リーンキャンバスのテンプレート(ダウンロード可能)
ニジボックスでは、リーンキャンバスの作り方とテンプレートをまとめたPowerPoint資料を配布しています。
シンプルな作りなので、簡易的にすぐ作成したい人はぜひご活用ください。
リーンキャンバスのメリット3点
リーンキャンバスには3つのメリットがあります。
順番に見ていきましょう。
1. スピーディに作成可能
リーンキャンバスのメリット1点目は、スピーディに作成可能ということです。
リーンキャンバスを使えば、決まった項目を埋めてゆくだけで、事業のビジネスモデルを可視化すること可能です。
2. 共有・検討がしやすい
リーンキャンバスでは事業の価値構造が1枚のシートで表されるため、他の人への共有も容易にできます。
よって、より多くの人に読まれ、ビジネスモデルに関してのアドバイスや提案を受け入れやすくなります。
結果として仮説検証のサイクルも早まり、必要に応じて頻繁にビジネスモデルをアップデートすることが可能です。
3. シンプルで理解しやすい
3つ目のメリットは、シンプルで理解しやすいということです。
リーンキャンバスは、ビジネスモデルの本質的な価値構造を1枚のシートで可視化することが可能です。
よって、短い時間で投資家やクライアント、ひいては社内の決裁者に要点を伝えることができます。
リーンキャンバスを構成する9つの要素
リーンキャンバスは、9つの要素から構成された1枚のシートであることが特徴です。
9つの要素に関して、リーンキャンバス上では、商品の価値である顧客に何を提供できるかという「独自の価値提案」を中心に、「左側:プロダクト」「右側:マーケット」の左右に分けることができます。
9つの項目に関しては1から順に埋めていくのが良いとされていますが、順番はあくまでも参考程度に留め、難しい場合は埋めやすいところから埋めていく進め方で良いでしょう。
ここから、ひとつひとつの要素について解説していきます。
1. 課題
1つ目の「課題」には、「顧客が解決する必要のある課題」を記入します。
ターゲットと考えられる顧客セグメントにとって、優先順位の高い課題を1〜3個ほど挙げてみましょう。
解決すべき課題が見つからない場合は、提供しようと考えている製品やサービスが解決できる課題がない状況を意味し、ユーザー像が不透明になってしまいます。
2. 顧客セグメント
「顧客セグメント」には、「誰に価値を提供するのか」を記入します。
顧客をグループ化し、どのセグメントに関わるのか、あるいは関わらないのかを設定します。
性別や年代、住んでいる場所などのデモグラフィック属性や、利用目的などでセグメント分けをすると良いです。
3. 独自の価値提案
キャンバスの中心に位置するのがこの独自の価値提案(ユニークバリュープロポジション)です。
顧客セグメント(2)が抱える課題(1)に対して、「どのような価値を提供するのか」を記入します。
ここでいう「価値」とは、課題に対して企業が提供する、製品・サービスの内容のことを指します。
顧客セグメントごとに提供価値を考えていきますが、整合性がわかりにくい場合は、このブロックだけを抽出したバリュープロポジションキャンバスや価値・顧客シートによる検証や顧客分析を行います。
バリュープロポジションキャンバスについては以下の記事で解説しています。詳しく知りたい方はこちらの記事もご参照ください!
4. ソリューション
「ソリューション」には、1で挙げた課題の解決策を記入します。
一度に完璧な解決策を見つけることは至難の業です。
よって、ユーザーインタビューなどを行い、解決策のヒントを探るなどして、リーンスタートアップの「構築―計測―学習」プロセスを繰り返し、解決策をブラッシュアップしていくことが重要です。
ユーザーインタビューについて詳しく知りたい方は、こちらの記事もご参照ください!
5. チャネル
「チャネル」には、特定の顧客セグメントに対してどのチャネルを通じてリーチするかを記入します。
コミュニケーション、流通、販売チャネル、アフターフォローなど、商品やサービスの提供ルートや、プロモーションの手段を設定します。
また、初期段階では規模にこだわるのではなく、リーンスタートアップの「学習」プロセスを進めることを目的とすると良いです。
6. 収益の流れ
「収益の流れ」には、「どのように収益化させるか」を記入します。
スタートアップや新規事業において、コストを引き下げたり、無償提供することで利用者を増やしたりする手法はよく見られます。
一方で、最終的にどう収益をあげるのかを見越した、慎重な計画が必要な項目です。
7. コスト構造
「コスト構造」には、ビジネスモデルを運営するにあたり発生するコストを記入します。
ここで算出したコストと収益の流れ(6)から、大まかな損益分岐点を計算することが可能です。
8. 主要指標
どの数値が出れば成功と言えるのか、パフォーマンスを測る指標を「主要指標」には記入します。
KPI(Key Performance Indicator, 重要業績評価指標)に設定する数値はさまざまありますが、近年のインターネットを活用したサービスでは、顧客の行動モデルを表した、AARRR(アー)モデル(別名:海賊指標)というフレームワークが活用されています。
AARRR(アー)モデルについては以下の記事でも解説しています。こちらもぜひご覧ください!
9. 圧倒的な優位性
「圧倒的な優位性」には、競合他社に簡単には参入されない参入障壁や自社の優位性について記入します。
これはパートナーや投資家を探す際にも有利に働きます。
圧倒的な優位性としてふさわしいものは、コピーや購入ができないものです。
例えばインサイダー情報、専門家の支持、既存の顧客などは当てはまりますが、コミットメントや情熱などは該当しません。
リーンキャンバス作成の流れ
リーンキャンバスの作成は、前章で紹介した9つの要素を正しい順番に沿って埋めていく流れで進めていきます。
正しい順番とは以下の通りです。
- 課題
- 顧客セグメント
- 独自の価値提案
- ソリューション
- チャネル
- 収益の流れ
- コスト構造
- 主要指標
- 圧倒的な優位性
最初に課題・顧客セグメントと独自の価値提案、つまり「誰のどんな課題に対して、どのような価値を提供するか」を明確にします。
次に、定めた課題に対してのソリューションと、商品・サービスを届ける経路であるチャネルを明らかにすることで、マネタイズモデル(=収益の流れ)が見えてきます。
さらに、コスト構造を把握して収益と比較することで主要指標を設定することができ、最後に1.課題~8.主要指標の全体を見渡し、新規事業において重要な、他社と比較した際の優位性を特定します。
リーンキャンバス作成に活用できるツール2選
リーンキャンバスを作成し、関係者間での共有もスムーズにできるツールについても紹介していきます。
1. Miro
Miroはリモートで共同編集し、オンライン会議におけるコラボレーションをより効率化させるホワイトボードツールです。
テキスト入力はもちろん、付箋などを用いてビジュアルでのコミュニケーションを実現できます。
直感的なUIでリーンキャンバスを簡単に作成でき、テンプレートも用意されているのでおすすめです。
2. Lucidchart
Lucidchartとは、フローチャートのような簡易なものから複雑な設計図まで作成できるクラウド作図ツールです。
作成したデータの共有も可能で、チャットツールなどとの連携にも対応しています。
このツールにもリーンキャンバスのテンプレートが用意されています。
新規事業立ち上げをスムーズに進行するためには?
ここまで、リーンキャンバスの特徴や使い方について解説してきましたがいかがだったでしょうか。
新規事業におけるフレームワークは、以下の記事でも詳しく説明しています。こちらの記事もぜひご覧ください!
スタートアップや新規事業の立ち上げにおいて、頭の中のアイディアを形にする作業は重要です。
可視化することで、社内や投資家など他の人からのアドバイスや提案を反映しやすくなり、その分ビジネスモデルの仮説検証のサイクルも早く進められるためです。
とはいえ、新規事業と聞くと、次のような悩みをお持ちの方は少なくないかもしれません。
・具体的にどのように進めれば良いか分からない
・UXの観点でビジネスを進めた方が良いと聞いたことはあるが、いまいち理由が分からない
下記資料では、新規事業の立ち上げからリリースまでを具体的にどのように進めるべきなのかについて、よくあるご質問を交えながら解説しています。
ぜひUXリサーチを用いた事業推進への理解を深めることにお役立てください。
■参考文献・資料
・日経BP、アッシュ・マウリャ 著(2017)『図解リーン・スタートアップ成長戦略』
・「LEAN CANVAS Don’t Write a Business Plan. Create a Lean Canvas Instead.」, [online] (参照 2019-12-1)
・「What is the Right Fill Order for a Lean Canvas?」, [online] (参照 2019-12-3)
元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
X:@junmaruuuuu
note:junmaru228