ECサイトにおけるカスタマージャーニーの必要性は?具体的な構築方法を解説

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ECサイトの運営でさまざまな施策を行う場合、積極的に活用したいのがカスタマージャーニーです。
カスタマージャーニーの作成によって、ユーザーの利用・購入におけるプロセスを把握できます。利用・購入のそれぞれの段階における課題を洗い出せるため、効果的なアプローチが可能です。
この記事では、ECサイトの運営におけるカスタマージャーニーの必要性や、具体的な構築方法を解説します。
目次
カスタマージャーニーとは

カスタマージャーニーとは、ユーザーの利用・購入における「認知・興味」「情報収集・比較検討」「行動」「決定・購入」「共有・拡散」などのフローを通した、ユーザー体験のプロセスを指します。
ユーザーが商品やサービスを知り、購入して共有・拡散するまでには、そのステージごとにさまざまな行動をし、感情を変化させていきます。
カスタマージャーニーを構築してそのユーザー体験の全貌を俯瞰すれば、それぞれのステージにおける課題を洗い出し、効果的なアプローチを考えることが可能です。
そして、カスタマージャーニーを可視化したものは、カスタマージャーニーマップと言います。
カスタマージャーニーマップは「ユーザーに希望する行動をとってもらうには、ユーザーに対してどのような態度変容を促していけばいいのか」を整理するためのフレームワークともいえるでしょう。
カスタマージャーニーマップに関しては以下の記事で詳しく解説しています。
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ECサイトにおいてカスタマージャーニーを構築するメリット4点
ECサイトの運営において、カスタマージャーニーの構築や、カスタマージャーニーマップの作成に関するメリットを解説します。
1.ターゲットユーザーへの理解が深まる
前述のとおり、カスタマージャーニーは、利用・購入におけるユーザー体験のプロセスのことです。ECサイトのカスタマージャーニーを構築すれば、ターゲットユーザーが購買行動の各ステージでどのような行動をし、思考しているのか理解を深められます。
ユーザー体験を向上させるためには、最初に現状の的確な把握が必要です。しかし、近年は消費行動が複雑化していることから、自社とユーザーのタッチポイント(接点)やユーザーの購買行動を把握するのは、簡単ではありません。
販売チャネルが多様化しているため、実店舗やECサイト、SNSやメルマガなどさまざまなチャネルを持っている企業も多いでしょう。現在では、複数のチャネルを組み合わせて集客を図ることが一般的です。
ユーザーのタッチポイントになっているチャネルごとにユーザーの購買行動を把握するには、カスタマージャーニーの構築が欠かせません。
また、チャネルの多様化により、ユーザーの消費行動や購買行動も多様化・複雑化しています。
従来の手法では難しいユーザーの購買行動の把握も、カスタマージャーニーマップを活用して購買行動におけるユーザー体験のプロセスを可視化すれば、全体像を把握しやすくなります。
2.ユーザーの視点で商品・サービスを評価できる
何か新たな商品・サービスを考案する際は、意図せずとも企業側の視点に寄ってしまいがちです。
結果的に、利益の上げやすさや展開のしやすさといった希望的観測を含めて検討してしまうことが少なくありません。
その点、カスタマージャーニーは、企業の視点ではなくユーザーの視点で構築して活用するため、ECサイトの商品・サービスについて自社の希望的観測をできるだけ排除して検討できます。
結果的に、現状に対してより客観的で適切な評価がしやすくなり、ユーザーの考えに沿ったユーザー体験を向上させるための新たな気づきを得やすくなるでしょう。
3.解決すべき課題の優先順位が明確になる
カスタマージャーニーマップでは、ユーザー体験のプロセスごとに課題を洗い出して可視化できます。さらに、それらの課題に対して注力したいフェーズや、深刻度などの基準を設けて優先度をつけることで、解決すべき課題の優先順位を明らかにすることが可能です。
課題に優先順位をつけることで、短期間で結果が出そうな施策や大きな成果が出そうな施策を効率良く迅速に実行できるようになります。
ECサイトで成果を出すには、スピードや効率性は重要な要素の一つです。これらを押さえながらユーザー体験を向上させる施策を行えるのは、ECサイトにおいてカスタマージャーニーを構築するメリットの一つといえます。
4.関係者が共通認識を持てる
カスタマージャーニーマップを作成すると、ユーザーの利用・購入におけるユーザー体験と解決すべき課題を可視化できます。
ECサイトの施策には、商品開発やカスタマーサポートなどにさまざまな人が関与しているため、担当者だけで完結するものではありません。カスタマージャーニーマップを作成すれば、購買行動におけるユーザー体験と解決すべき課題について、関与するさまざまな立場の人が認識を共有できます。
結果的に、関係者間で認識のズレがなくなり、施策がより効果的・効率的なものになるでしょう。
ECサイトにおけるカスタマージャーニーとユーザー行動

上図は、カスタマージャーニーを可視化した、一般的なカスタマージャーニーマップです。このように、カスタマージャーニーマップは横軸と縦軸で構成されています。
一番上の横軸にある「認知・興味」から「共有・拡散」までが「フェーズ」と呼ばれるものです。
まずは、自社ECサイトでペルソナがすると考えられる購買行動をフェーズに分解し、横軸に設定していきます。
そして、横軸の各フェーズに対して「タッチポイント(接点)」「行動」「思考」「感情」「課題」といった縦軸を設定します。
縦軸の項目は、自社ECサイトや設定したペルソナの購買行動に合わせて適宜変更しても構いません。
ここからは、ECサイトにおけるカスタマージャーニーの横軸にあたる、各フェーズに関して詳しく解説します。
カスタマージャーニーマップのテンプレートは、以下のリンクからダウンロードが可能です。

1.課題・興味関心
「課題・興味関心」は、気になること・困りごとなどがある潜在顧客がECサイトの存在や商品・サービスを認知し、興味関心を抱く段階です。
この段階では、購入を考えていないユーザーが多いと考えられるため、以下のような施策が求められます。
【例】
- Webで広告を打つ
- 楽天などのECモールに出店する
- インフルエンサーに使用してもらって拡散してもらう
このフェーズでは、ユーザーがどのようにして自社のECサイトを見つけたのか、どのようなことを考えているのか、何を課題としているのかなどを考え、潜在ニーズを分析します。
そして、潜在ニーズがペルソナと合致しているか、デモグラフィック属性(人口統計学的な属性。性別や年齢、居住地、家族構成など)によりユーザーの行動に違いがあるかなどを確認します。
この段階では、ユーザーが自社のECサイトの存在を認知した部分が特に着目すべき点となります。です。ここでユーザーの興味を掘り下げて、最終的な購入に導いていきましょう。
2.情報収集・比較検討
「情報収集・比較検討」は、ECサイト内の別の商品・サービスや競合サイト、インターネット検索、SNSなどを活用してリサーチする段階です。
「そもそも購買行動を起こすべきか」と迷っていることもあるため、以下のような購買意欲を高める施策が求められます。
【例】
他サイトとの比較検討で自社ECサイトを選んでもらう手法
- モデルやスタッフなどに商品を着用してもらい、その人の身長や体形などを合わせて記載することでより分かりやすくする
- 商品のスペックだけではなく、その商品がなぜ作られたのかなどのバックストーリーを入れて、よりユーザーの心に響く要素を入れる
- プロの写真家に撮影を依頼して美しい商品画像を掲載し、購買意欲をかき立てる
3.決定・購入
「決定・購入」は、ユーザーがECサイトでの購入を決めた段階です。
この段階では、購入方法が分かりやすいことや、信頼性の高い決済方法を用意していること、決済の流れがスムーズであることが重要です。
さらに、商品の到着目安、返品・交換の方法、購入時の手数料など必要な情報を提供し、ユーザーが安心して購入できるよう気を配ります。
この段階で購入フローが煩雑だったり、商品の発送・返品などに関する情報が不十分だったりすると、購入に至らないケースもあるため注意が必要です。
4.継続利用・再購入
「継続利用・再購入」は、ポジティブなユーザー体験により、ユーザーが購入した商品・サービスやECサイトを今後も利用したいと思う段階です。
売上を伸ばすには、新規ユーザーをリピーターとして定着させることが重要です。一度の利用に留まらず、再度利用してもらえるように、ファン化の仕組みを作りましょう。
【例】
新規ユーザーを定着させるための具体的な方法
- 梱包時にお礼のメッセージを入れる
- サービス利用者へのメールマガジンの配信
- 会員専用クーポンの発行
5.共有・拡散
「共有・拡散」は、ECサイトや商品・サービスの情報を、SNSなどでフォロワーや知人と共有する段階です。
使用してみた感想・評価をユーザー自身の言葉で拡散するため、フォロワーや知人にはより信頼度の高い情報として受け取ってもらえます。
このフェーズでは、ユーザーに共有・拡散してもらえるよう積極的な働きかけを行うことが大切です。
【例】
ユーザーに共有・拡散してもらうための具体的な方法
- サービス利用者へ感謝のメッセージを送る
- 会員ユーザーの誕生月に専用のプレゼントを贈る
カスタマージャーニーの構築方法6つのステップ

ここからは、ECサイトにおいてカスタマージャーニーを構築する方法(カスタマージャーニーマップの作成方法)を、5つの段階に分けて解説します。
1.ペルソナを設定する
ペルソナとは、実際に商品やサービスの利用が想定されるユーザーを一人の人物とみなし、経歴などの詳細をまとめあげたものです。
ペルソナを設定する目的は、自社の商品やサービスを利用するユーザー像の共通認識を持つことです。
ペルソナの設定により、ユーザー体験のプロセスをより具体的にイメージしやすくなり、ペルソナと同様の価値観やニーズを持つユーザーに響く施策が可能になります。
設定の際は、実際のデータを基に、できる限り詳細な情報を含めていくことがポイントです。まずは、ユーザーインタビューやSNSの口コミ、アンケート調査など、さまざまな方法で情報を収集しましょう。
カスタマージャーニーにおけるペルソナの具体的な設定方法については、以下の記事で解説しています。
また、ペルソナについては下記の記事で解説しています。
2.タッチポイントをリストアップする
ペルソナの設定が終わったら、ペルソナとのタッチポイント(接点)をフェーズごとに可視化します。タッチポイントにはECサイトのほかにも、SNSや広告、実店舗などが挙げられます。
カスタマージャーニーのタッチポイントについては、下記の記事もぜひ併せてご覧ください。
3.ペルソナの行動を設定する
次に、ペルソナの行動やタッチポイントをフェーズごとに記入していき、1つのカスタマージャーニーマップにまとめます。
行動やタッチポイントを軸に、どのような思考・感情の変化があるのかを分析し、落とし込みます。
タッチポイントを全てリストアップしたら、各チャネルでユーザーがとる行動を推測しましょう。
例えば、ECサイトを訪問したユーザーは、商品の詳細や口コミをチェックしたり、実際に商品を購入したりするかもしれません。また、そのまま何もせずECサイトを離れる可能性もあります。
ECサイトの全てのCTA(行動喚起)と、ユーザーの行動に影響を与える可能性があるメッセージやリンクなどをよく確認するのがポイントです。
Googleアナリティクスなどサイトアクセス解析ツールからの収集データより分かる結果と、先程推測した、理想となるユーザーの行動と一致するかを検証しましょう。
4.ペルソナの思考・感情を設定する
ペルソナの思考や感情は収集したデータから直接分かるものではないため、ペルソナで設定した人物像を基にデータを活用して考えていきます。
なお、ユーザーインタビューやアンケートでユーザーの生の声を集めると、分析の際にペルソナがずれにくくなります。
また、行動なら行動、思考なら思考など、縦軸の項目ごとに最初から最後までフェーズの流れを洗い出して記入すると、ペルソナの状況の変化がよりイメージしやすくなるでしょう。
5.課題を洗い出す
フェーズごとに全ての項目を埋めたら、ここまで埋めた情報を基に解決すべき課題を洗い出していき、カスタマージャーニーマップに記入しましょう。そして、洗い出した課題に対してどのような解決策がとれるかを整理します。
これまでに収集したデータ以外に、競合他社の検索順位や自社との類似点・優位性・自社のECサイトで離脱が多いポイントなども、課題を洗い出す際の参考になります。
6.施策とKPIを決定する
最後にこれまでカスタマージャーニーマップに記入した情報からフェーズごとの施策を決めます。そして、施策に優先順位をつけて実行していきましょう。
その際、目標に対してKPI(重要業績評価指標)を設定します。
KPIに設定できるのは、購入者数など具体的に数値を設定できるものです。例えば商品の購入者数などが該当します。
売上金額という目標に対し、購入者数をKPIとする、というように設定していきます。
施策は、ペルソナがCV(マーケティング施策における最終的な成果)に至るまでに、大きな課題がある部分から優先して実行します。施策ごとにCVに向けた目標を設定しましょう。
具体的には、自社のECサイトにどれくらいのユーザーが訪問して、どれくらいの人が購入し、客単価はいくらなのかなどを確認します。
その上でKPIを設定し、特に問題になっているフェーズに絞って施策を考えていくという流れです。
ECサイトにおけるカスタマージャーニー作成時の注意点2つ

最後に、ECサイトにおけるカスタマージャーニー作成時の注意点を解説します。
1.データに沿って作成をする
ECサイトのカスタマージャーニーを作成する際は、企業にとって理想の人物やユーザー行動を作るのではなく、アンケートで上がった声や、実際の過去の数字(売上データなど)を基に分析しましょう。
何となく作成するのではなく、実際のデータを基に作ることが重要です。
実際のデータを用いないと、自社の希望を含んだ都合のいいカスタマージャーニーになってしまう恐れがあります。そうすると効果的な施策をとることができません。
データに沿ってペルソナの思考や感情を導き出し、データが少ない場合は仮説検証し、できるだけ現実に沿ったカスタマージャーニーを作るように意識しましょう。
2.定期的に情報を更新する
カスタマージャーニーは一度作って終わりではありません。
特にECサイトの場合、新商品の発表などが自社や競合が起きやすく、商品によっては流行に左右される可能性もあります。
そのため、定期的にアップデートすることが大切です。
さらに、実施した施策の結果を確認し、改善を加えてPDCAを回していきます。
施策が全体的に効果を出している場合は年一回程度の更新、施策の効果があまり見られないなら3ヶ月~半年に一度など、こまめに見直して改善しましょう。
まとめ
カスタマージャーニーとは、ユーザーの利用・行動におけるユーザー体験のプロセスを指します。そして、これを可視化したものが、カスタマージャーニーマップです。
ECサイトにおいてカスタマージャーニーを構築すると、ユーザー体験の現状を把握でき、ユーザーの視点で商品やサービスを適切に評価できます。
さらに、課題の洗い出しや課題の優先順位づけができるほか、関係者間でユーザー体験と解決すべき課題について共通認識を持てるのもメリットです。
ECサイトでカスタマージャーニーを構築する際の手順としては、まずペルソナを設定します。そして、ペルソナのタッチポイントを可視化し、フェーズごとにペルソナの行動やタッチポイントをカスタマージャーニーマップに記入していきましょう。
ここまでをカスタマージャーニーマップに埋めたら、解決すべき課題を洗い出しフェーズごとに施策を決め、重要度で優先順位をつけてKPIを設定し、実行に移すという流れです。
カスタマージャーニーを構築する際の注意点としては、「企業の希望的観測を排除し実際のデータに沿うこと」「構築後も定期的に情報を更新すること」が挙げられます。こうすることで、ユーザーへのより効果的なアプローチが可能となります。
ニジボックスは、UXデザインやデザイン思考をはじめとするさまざまなビジネス手法を実際に数多く実施し、検証を重ねてきております。
下記の資料では、ニジボックスがクライアント課題に伴走する中で磨き上げてきたUXデザインやUIデザインの支援事例の一端を資料として一部ご紹介しています。
ご興味を持たれた方はぜひ、下記ダウンロードリンクよりご参照ください。

元ニジボックス 執行役員、TRTL Studio株式会社 CEO、その他顧問やエンジェル投資家として活動
コンサルティング会社でのUI開発経験を持つ技術者としてキャリアをスタート。リクルートホールディングス入社後、インキュベーション部門のUX組織と、グループ企業ニジボックスのデザイン部門を牽引。ニジボックスではPDMを経てデザインファーム事業を創設、事業部長に就任。その後執行役員として新しいUXソリューション開発を推進。2023年に退任。現在TRTL Venturesでインド投資・アジアのユニコーン企業の日本進出支援、その他新規事業・DX・UX・経営などの顧問や投資家として活動中。
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